第520話山上臣憶良の七夕の歌(5)
秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる
(巻8-1523)
天の川 いと川浪は 立たねども さもらひかたし 近きこの瀬を
(巻8-1524)
袖振らば 見も交しつべく 近けども 渡るすべなし 秋にしあらねば
(巻8-1525)
玉かぎる ほのかに見えて 別れなば もとなや恋ひむ 逢ふ時までは
(巻8-1526)
右は天平二年七月八日の夜に、帥の家に集ひ会せしものなり。
秋風が吹き始めたその日から、いつおいでになられるかと、私が待ち焦がれていた貴方が、今こそおいでになられました。 (織姫の立場)
天の川は、それほど川浪は立たないのですが、定められた船出の時期を待つしかないのです。こんなに近い渡り瀬なのですが。 (牽牛の立場)
袖を振れば、お互いに見えるほど近くにいるのですが、私には渡る手段がないのです。秋のその時期ではないので。 (牽牛の立場)
ほんの僅かの逢瀬だけで、またお別れになってしまうと、どうしようもなく恋焦がれてしまうのです、またお逢いできるその日まで。 (織姫の立場)
天平二年(730)七月八日の夜の、大宰帥大伴旅人邸の宴席での歌四首。
おそらく前日の七日に雨でも降って、一日延期されたものと思われる。
待ち焦がれていた織姫に牽牛が答え、最後の別れで織姫がまた嘆く。
互いに儚い宿命を嘆きながら、それでも引かれ合う、七夕をテーマとした美しい相聞歌になっている。
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