第353話故郷を詠みき

清き瀬に 千鳥妻呼び 山のまに 霞立つらむ 神奈備の里

                     (巻7-1125)

年月も いまだ経なくに 明日香川 瀬々ゆ渡しし 石橋もなし

                     (巻7-1126)


※神奈備の里:神のこもる所。この歌では明日香の神奈備。橘寺(聖徳太子誕生地)南東のミハ山との説あり。

※石橋:流れの中に、いくつかの石を置いて作った橋。


神奈備の里では、清らかな川瀬で千鳥が妻を呼び鳴き、山の間には霞が立っていることでしょう。


それほどの年月もまだ経っていないのに、明日香川のあちらこちらの川瀬に渡しておいた飛び石が、もうなくなっているのです。



都が明日香から平城京に移った後の歌。

一首目は平城京にいて、故郷明日香を偲ぶ。

帰りたくても帰れない新都の生活の中で、美しい神奈備の里を想い、その心を慰めたのだろうか。


二首目は、帰郷して、明日香川の変貌を嘆く。

おそらく管理も行き届かず、激流で思い出のあった石橋も流されてしまったようだ。

そんな言いようのない寂しさを感じる歌である。


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