第349話葉を詠みき

いにしへに ありけむ人も 我がごとか 三輪の檜原に かざし折りけむ

                           (巻7-1118)

行く川の 過ぎゆく人の 手折らねば うらぶれ立てり 三輪の檜原は

                           (巻7-1119)

右の二首は、柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ。


その昔、この地を訪れた人も、私たちのように、三輪の檜原で檜の枝葉を折って、かざしに刺したのでしょうか。


通り過ぎて行く人が手折らないので、三輪の檜原は寂しそうに立っています。



三輪山の麓に広がる檜原は、巻向の檜原と呼ばれ、古来から、その檜をかざしにするのは、常緑の葉の聖なる力を身に取り込むと言われていた。

そして人麻呂としては、同じようにかざしにして感慨に浸っていたけれど、自分たちの目の前をどんどん行き過ぎて行く人は、全く関心を持たない。

「この聖なる三輪の檜原を無視するのか」と嘆き、見向きもされなかった三輪の檜原が寂しそうに立っていると見る。


あるいは、これは三輪の檜原での宴会時の歌。

せっかく自分たちが宴会を開き、古式にそって檜の枝葉でかざしに刺して、古代からの聖なる力を取り込み、感慨にふける。

そして、自分たちの目の前を通り過ぎて行く人は、宴席をつれなく去る、あるいは宴会そのものに見向きもしない人たち。

それでは、この聖なる三輪の檜原が寂しいではないですかと、宴会に引きずり込もうという歌とも考えられる。






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