第309話大汝 少彦名の 神こそば

冬十一月、大伴坂上郎女、帥の家より上道して、筑前国宗形郡名児山を超えし時に作りし歌一首


大汝 少彦名の 神こそば 名付けそめけめ 名のみを 名児山と負ひて

我が恋の 千重の一重も 慰めなくに

                               (巻6-963)


※名児山:福岡県宗像郡の通称ナチゴ山。


天平2年冬11月、大伴坂上郎女が太宰帥の大伴旅人の家を出発して、奈良の都に帰る途中、筑前国宗像郡の名児山を超えた時に作った歌一首


国造りをなされた大国主命様と少彦名命様の二柱の神様が、最初に名付けたと言われておりますが、心が「なごむ」という名児山の名を負っているばかりで、私の苦しい恋心の千分の一も慰めてはいただけないのです。


大伴坂上郎女は、大伴旅人の異母妹で、大伴一族の刀自(取りまとめ役)として、また氏族の巫女的存在で、大伴旅人の大宰府滞在に同行していた。

そして、大伴旅人は同じ冬12月に帰京するけれど、それに先立ち、帰京の途についた。

恋心の対象は明確ではないけれど、大宰府に愛着を覚えていたとの説、早く都に戻りたいと思ったとの説がある。

旅人より先に戻る理由は、大伴家の刀自として、巫女として、奈良に先に戻り、旅人を迎える準備をしたと思われる。

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