第298話天地の 遠きがごとく

山部宿祢赤人の作りし歌一首 短歌を幷せたり


天地の 遠きがごとく 日月の 長きがごとく おしてる 難波の宮に わご大君 国知らすらし 御食つ国 日の御調と 淡路の 野島の海人の 海の底 沖ついくりに 鮑玉 さはに潜き出 船並めて 仕へ奉るが 貴し見れば

                               (巻6-933)

朝なぎに 梶の音聞ゆ 御食つ国 野島の海人の 船にしあるらし

                               (巻6-934)


※御食つ国:天皇に食料を奉る国のことで、淡路や、他に志摩など。

※鮑玉:アワビのこと。古代、丸い物には霊力が宿るとして、喜ばれた。


天地が永遠であるがごとく、日月が長久であるがごとく、難波の宮で、我が大君は天下をお治めになられるようです。

献上品を捧げる国からの、お供えの品として、淡路の野島の海人が、沖の深い岩礁から、鮑の真珠を数多く潜り取り、船を並べてお仕えをする尊い様子を見ておりますと。


朝なぎに 楫の音が聞こえてきました。御食つ国の野島の海人の船のようです。



難波行幸の折の作とされている。

長歌の前半は天下統治の永遠を祝福、後半からは海上にて見える様子を、言祝ぐ。

反歌は、朝なぎに聞こえて来た楫の音で、おそらく前日に見た野島の海人の舟を推測する。



古代の難波の海の情景が、そのまま目に浮かんで来るような、名歌と思う。

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