第294話笠朝臣金村 あしひきの み山もさやに
神亀二年乙丑の夏五月、芳野離宮に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる歌一首并せて短歌
あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺には 千鳥しば鳴き 下辺には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに しじにしあれば 見るごとに あやにともしみ 玉かづら 絶ゆることなく 万代に かくしもがもと 天地の 神をそ祈る 恐くあれども
(巻6-920)
万代に 見とも飽かめや み吉野の たぎつ河内かふちの 大宮所
(巻6-921)
人皆の 命もわれも み吉野の 滝の常盤の 常ならぬかも
(巻6-921)
神亀2年(725)夏5月、聖武天皇が吉野の離宮に行幸なされた折に、笠朝臣金村が作った歌一首と短歌。
山はすがすがしく、激しく流れ落ちる吉野川の清らかさを見ていると、上流では千鳥がしきりに鳴き、下流では河鹿が妻を呼び鳴いております。
大宮人はあちらこちらに大勢おりまして、見かけるたびに、この上なく心を惹かれ、絶えることなく、万代までも、このようであて欲しいと、天地の神々に祈ります。
恐れ多いことではありますけれど。
永遠に見続けたとしても、見飽きることはないでしょう。麗しき吉野の激しく流れる川のほとりの大宮所は。
皆さまのお命も、私の命も、この麗しい吉野の滝の大岩のように、永遠であって欲しいと思うのです。
まず、吉野の山や吉野川の清かな様を褒め、その川の千鳥や蛙の鳴き声を詠い、吉野の土地の豊かさを讃える。
次に、都から付き添ってきた官僚の賑やかに遊ぶ様を詠い、絶えることなく、万年の後にもこのようにと、天地の神に祈り一首を締める。
次に、永遠に見続けても飽きない吉野川のほとりにある離宮を讃える。
三首目に、吉野川のほとりの大岩のように「すべての人々の命も私の命も吉野の滝の大岩のように変わらずにあって欲しい」と、言霊の祈りの歌を詠む。
行幸に付き従って詠む歌として、完全な形を取る三首。
政変や事件が多かった聖武帝の時代、別天地の吉野離宮にて、その地の霊力を授かり、永遠の安定を願う想いを、ひしと感じる三首と思う。
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