第281話後人の追和せし詩三首
後人の追和せし詩三首 帥老
松浦川 川の瀬速み 紅の 藻の裾濡れて 鮎か釣るらむ
(巻5-861)
人皆の 見らむ松浦の 玉島を 見ずてや我は 恋ひつつをらむ
(巻5-862)
松浦川 玉島の浦に 若鮎釣る 妹らを見らむ 人のともしさ
(巻5-863)
松浦川の流れが速いので、娘たちは紅の裳の裾を濡らして、鮎を釣っているのだろうか。
他の人が見るに違いがない松浦の玉島を、私は見ることが出来ないで、恋しがっているだけなのだろうか。
松浦川の玉島の浦で、若鮎を釣る娘たちを見ることができる人が、うらやましくてたまらない。
帥老は大伴旅人氏。
松浦川で見かけたハツラツとして鮎を釣る娘たちを思い出して、懐かしんでいる。
平城京から遠く離れて、将来の不安を感じて暮らす旅人氏たちの奈良からの官人たちにとって、美しい白く輝く脚をむきだしにして、鮎を釣り、笑顔で自分たちに答えてくれた若い娘たちは、まるで天女。
もう一度見たいし、声を掛け合いたいと思うのは、当然ではないだろうか。
万葉集を研究する学者たちは、あくまでも虚構の歌、宴会の戯れ歌とする人も多いけれど、その説は都から来た高位の官人が、地方の下々の娘等には見向きもしないという、程度の低い傲慢さに由来する。
少なくとも、歌を詠む人は、そんな傲慢で濁った感性では、ロクな歌を詠めない。
美しいものを、素直に美しいと、感じるのでなければ、歌を詠む資格はないのだから。
特に根拠の低い権威主義に固まる壮年の学者ほど、虚構説に固まる傾向が強いようだ。
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