第276話員外の、故郷を思ひし歌
員外の、故郷を思ひし歌両首
わが盛り いたくくたちぬ 雲に飛ぶ 薬食むとも またをちめやも
(巻5-847)
雲に飛ぶ 薬食むよは 都見ば いやしき我が身 またをちぬべし
(巻5-848)
私の盛りの時期は、とうに過ぎてしまった。雲に飛ぶ仙薬を飲んだとしても、もはや若さを取り戻すことはないだろう。
雲に飛べるような仙薬を飲むよりは、都を見ることができれば、この卑しい私もまた、若返ることでしょう。
員外の歌とは身分が低く、梅花の宴に加わっていない人が付け足しとして詠んだ歌の説があるけれど、大伴旅人氏が、卑官の立場として詠んだ歌。
いずれにせよ、梅の花の宴会を楽しみながらも、実は、もう一度都に戻りたいという意味の歌。
前年には藤原一族の謀略により、長屋王が失脚、自害に追い込まれている。
特に大伴旅人氏は、大貴族大伴家の頭領。
都に残して来た我が大伴家の一族が、専横を極める藤原一族によって、何をされるのかわからない不安を、消し去ることは出来ない。
その悔しさ、口惜しさを「いやしき」と自ら貶め、身分も隠す。
故郷を思う、それは故郷に戻り風景を愛でたいとの意味だけではない。
大伴家の頭領としての、責務を果たさねばならないとの思い。
そして専横を極める藤原一族により、なかなか戻れないという落胆と焦り。
実に複雑な思いが、こめられた二首である。
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