第231話味酒を 三輪の祝が

丹波大女娘子たにはのおほめのをとめの歌三首


味酒うまさけを 三輪のほふりが いはふ杉 手触れし罪か 君に逢ひがたし

                       (巻4-712)


三輪の神官が奉る神杉に触れてしまった罪のためなのでしょうか。

愛しい貴方にお逢いすることが本当に難しいのです。



丹波大女娘子たにはのおほめのをとめ:未詳。

味酒:三輪の大神にかかる枕詞。

ほふり:神主、禰宜に次ぐ身分の神官。



大神神社のご神木は杉で、古来神聖なものとされていた。


『古事記』の大物主大神と活玉依姫の恋物語では、美しい乙女、活玉依姫のもとに夜になるとたいそう麗しい若者が訪ねてきて、二人はたちまちに恋に落ち、どれほども経たないうちに姫は身ごもる。

姫の両親は素性のわからない若者を不審に思い、若者が訪ねてきた時に赤土を床にまき、糸巻きの麻糸を針に通して若者の衣の裾に刺せと教える。

翌朝になると糸は鍵穴を出て、後に残っていた糸巻きは三勾(みわ)だけ。

そして糸を辿ってゆくと三輪山にたどり着いた。

これによって若者の正体が大物主大神であり、お腹の中の子が神の子と知る。

この時に糸巻きが三巻き(三勾)残っていたことから、この地を美和(三輪)と名付けた。

この物語は大神神社の初代の神主である意富多々泥古おおたねこの出自を述べるもので、糸巻きのことを苧環おだまきとも呼び、糸をたよりに相手の正体を探るという説話は苧環おだまき型と言われて、類似した説話が全国各地に広がりをみせる。

意富多々泥古おおたねこを祀る神社の入口脇に、おだまき杉といわれる杉の古株が残っており、物語に登場する活玉依姫の苧環おだまきの糸がこの杉の下まで続いていたという伝説が残されている。

※三輪大神神社HPより抜粋。



さて、丹波大女娘子たにはのおほめのをとめが、それほど神聖視されていた神杉に直接手を触れたとは、考えられない。

神杉のごとき高貴な身分の人に対する恋なのかもしれない。

とにかく相手には、神官が神杉を斎い守るような厳格な結界があって近寄りがたいのだと思う。


何の禁忌か、誰が相手なのか、様々な想像が広がる一首と思う。











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