第206話倭文たまき

安倍朝臣虫麻呂の歌一首

倭文しづたまき 数にもあらぬ 命もて なにかここだく 我が恋ひわたる

                          (巻4-672)


ものの数にも入らない、そんな程度の私の人生なのに、どうしてこれほど恋続けるのだろうか。


倭文しづたまきは、日本古来の綾織物で作った腕で素朴な物。

それに対して裕福な階級の人の腕輪は、大陸渡来の金玉製。

そのため、陳腐、貧相の意味で、「数にもあらぬ」にかかる枕詞になる。


自身を卑下し、叶わぬ恋に思いを燃やしていると言うことで、恋人に苦しさを訴えている。誰に贈った歌かは未詳、これも宴席での歌かもしれない。


※参考:山上憶良

しつたまき 数にもあらぬ 身にはあれど 千歳にもがと 思ほゆるかも

                            (山上憶良)

※派生歌

しづくまき 数にもあらぬ 玉のをの みだれて恋ひん 絶えははつとも(藤原家隆)


安倍朝臣虫麻呂:父は未詳。母は安曇外命婦。従姉妹に大伴坂上郎女。

天平10年(738)年八月、右大臣橘諸兄家の宴に臨席、歌を詠む。

同12年9月、藤原広嗣の乱に際し、勅使に任命される。

同年10月、佐伯常人と共に軍を率い、豊前国板櫃河で反乱軍と対戦、戦功を挙げる。







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