第152話大伴坂上大娘の、大伴宿祢家持に報贈せし歌

大伴坂上大娘の、大伴宿祢家持に報贈せし歌四首


生きてあらば 見まくも知らず 何しかも死なむよ 妹と夢に見えつる

                           (巻4-581)

ますらをも かく恋ひけるを たわやめの 恋ふる心に たぐひあらめやも

                           (巻4-582)

月草の 移ろひやすく 思へかも 我が思ふ人の 言も告げ来ぬ

                           (巻4-583)

春日山 朝立つ雲の 居ぬ日なく 見まくの欲しき 君にあるかも

                           (巻4-584)


この歌は大伴坂上大娘が、大伴家持に贈った四首の歌。

大娘は、大伴坂上郎女の娘で、後に家持の妻となる女性。


生きていれば逢えるかも知れないのに、なぜあなたは「いっしょに死のうよと夢に出て来たの?


立派な男でも、このように恋に苦しむのですね、でも、かよわい女の私が恋に苦しむのには、比べ物になりませんよ。


染め色がどんどん変わっていくようなお気持なのでしょうか、愛しい貴方から何の音沙汰もないのですが。


春日山に朝雲がたなびかない日などはありません、それと同じで毎日でも貴方にお逢いしたいのです。



「報贈せし」とあるので、本来は大伴家持から大伴坂上大娘に贈った歌があるはずではあるけれど、残っていない。

おそらく、これは喪失なのではなく、坂上大娘の夢に大伴家持がでてきた。

真剣な表情で、「一緒に死のう」と、なかなか逢瀬ができない苦しみを訴えかけて来た。

それに対して、坂上大娘は、逢えるかもしれないのに、そんなことは言わないで。

私も死にたいほど逢いたいのです、貴方も逢えなくて苦しんでいることはわかります、でもか弱い私も、もっと苦しんでいます。

そして、

音沙汰もありませんが、どうしてしまったの?心変わりなの?

春日山に毎朝たなびく雲と同じで、私も愛しい貴方を想わない日はありません、

と続く。



結局は、結ばれる二人ではあるけれど、万葉集にはしばらく家持と大娘の相聞歌は途絶える。

逢いたいけれど、結ばれたいけれど、なかなか、その時期が訪れない。

この二人にとって、恋の一番苦しい時期だったようだ。




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