第127話 旅路に切れた紐
中臣朝臣東人の、阿部女郎に贈りし歌一首
ひとり寝て 絶えにし紐を ゆゆしみと せむすび知らに 音のみしそ泣く
(巻4-515)
安倍女郎の答へし歌一首
わが持てる 三つあひに縒れる 糸もちて 付けましものの 今そ悔しき
(巻4-516)
・中臣朝臣東人の、阿部女郎に贈りった歌
一人寝をしている時に、貴方が結んでくれた紐が切れてしまいました。
怖ろしくて不吉で、結び方も知らないので、声をあげて泣いています。
・安倍女郎の答えた歌
私が持っている三つ縒りの糸で紐をしっかりと付けておけばよかったと、今は後悔しています。
古代日本において、紐は、旅立つ夫の安全や再会を祈り、妻が縫い付ける習慣だった。
それが、解けた理由は不明ながら、解けてしまったので、旅路は不吉で、愛する妻と二度と逢えなくなるような不安を感じたのだろう。
中臣朝臣東人は、声をあげて泣いてしまった。
それに対し、妻の阿部女郎は、もっとしっかりとした三縒りの糸で結んでおけばよかったと、今となっては悔やんでいると比較的冷静。
紐が切れて不安を感じて泣く男と、糸が弱かったと冷静な女は、もしかすると女の方からの「別れのサイン」を暗示しているのかもしれない。
男の方は、旅路に出る時点で、女から捨てられることを予感していた。
おそらく、女の新しい夫の存在を知っていたのかもしれない。
だから、実際に紐が切れれば、女の気持ちも切れたと判断して、声をあげて泣く。
女は、すでに新しい夫に心が向いているので、もっとしっかりとした糸で結べばよかったですね、でも、そこまでの関係だったのでしょう、今となっては残念だけれど程度の、別れ口上。
なかなか、女性の心は厳しい。
新しい夫ができてしまえば、声をあげて泣く弱い前夫などは、軽く捨てられてしまう。
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