第93話 大伴家の宴席歌二首
大伴坂上郎女の、親族を宴する日に吟ぜし歌一首
山守の ありける知らに その山に 標結ひ立てて 結ひの恥しつ
(巻3-401)
大伴宿祢駿河麻呂の即ち和せし歌一首
山守は けだしありとも 我妹子が 結ひけむ標を 人解かめやも
(巻3-402)
大伴坂上郎女が、親族の宴会に吟じた歌一首。
山守が、すでにいるということを知らないで、その山を自分のものなどという標縄を張ったりして、大恥をかいてしまいました。
大伴宿祢駿河麻呂が、即答した歌一首。
たとえ、山守がいたとしても、あなたが張った標縄を、他の人が解くでしょうか。
親族の宴席で歌い合った戯れの歌と推定されている。
「山守」は山の番人で、次の歌で唱和する駿河麻呂の妻らしい。
坂上郎女は、駿河麻呂に妻がいることを知らずに、「婿になって」と迫ったけれど、後で妻がいることを知り、大恥をかいてしまったと、嘆くような笑うような。
即座に、大伴駿河麻呂は、たとえ妻がいたとしても、あなたのようなお方の御誘いは、他の人が断ることが出来るのでしょうかと返す。
大伴駿河麻呂は、実際には坂上郎女の娘と結婚したとされているので、坂上郎女は義理の母になる。
義理の母は、「自分の娘ではなくて、私自身があなたを婿にしようと思っていたのに、知らない間に娘に取られてしまったのね、大恥ですよ」とからかう。
大伴駿河麻呂は、それでも義理の母に配慮。
「いえいえ、そんなことは・・・あなたのお誘いを断るなど、とてもとても・・・」
これも、宴席での、ほぼ戯れ。
いずれにせよ、なごやかな宴席での、冗談のかけあい。
当の「山守」にして駿河麻呂の妻(坂上郎女の娘)は、呆れるやら何とやらだったのだろう。
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