第52話 不尽山を詠みし歌
なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と
こちごちの 国のみ中ゆ 出で立てる 富士の高嶺は
天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上がらず
燃ゆる火を 雪もて消ち 降る雪を 火もて消ちつつ
言ひも得ず 名付けも知らず くすしくも います神かも
石花の海と 名付けてあるも その山の 堤める海そ
富士川と 人の渡るも その山の 水のたぎちそ
日の本の 大和の国の 鎮めとも います神かも
宝とも なれる山かも
駿河なる 富士の高嶺は 見れど飽かぬかも
(巻3-319)
※なまよみの:甲斐の国にかかる枕詞。
※うち寄する:駿河の国にかかる枕詞。
※こちごちの:両方の
※石花の海:現在の精進湖と西湖にわたる古名。貞観6年(864)の富士山噴火により精進湖と西湖に分かれた。
※日の本の:大和にかかる枕詞。
甲斐の国と駿河の国の真ん中からそびえたつ富士の高嶺は
空を行く雲も進むことをためらい、飛ぶ鳥も飛び上がろうともしない。
燃え上がる火を雪で消し、降る雪を火で消しつつ、
言うことも名付けることもできないような、霊威に満ちた神である。
石花と名付けてあるのは、その山が包み囲む湖。
富士川と言う人が渡るのは、その山から流れ出る激流。
大和の国を鎮め護る霊威に満ちた神であり、国の宝である山。
この駿河の富士の高嶺は、全く見飽きることがない。
作者は不明。万葉集の目録に笠朝臣金村歌集所出の歌とあるだけで、確定はしていない。
これも典型的な「土地ほめ」の歌となるけれど、やはり富士山は古来、日本人が感じる美しく霊威に満ちた山であったのだろう。
現代でも、新幹線車内で、富士山が見えると、車窓から撮影する人が絶えない。
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