blind self,

 私は学校が大好き。

 理由は単純。学校には心から理解しあっている友達がいるし、なにより学校に行けば楽しい事、嬉しいことがたくさんあるから。……でも嫌なことも中にはあるけど、それはそれ。

 そんな学校生活のなかで、一つだけ心に凝りが出来ていることがある。それはアヤ。

 ミサと比べちゃうとどうしてもアヤだけはちゃんと話が出来ていないと思う。こっちから話を振ってもちゃんと話してくれない。でも、私達と一緒に居るってことは、私達の事は嫌いではないんだと思うけど、私はちゃんとアヤに心を開いてもらいたい。


―――

――


「ねぇ、ユウとケイのあれ見た?」

 いつもホームルーム前に一緒に喋るというか、高校入ってからずっと一緒に居るミサが私にそう聞いてきた。あれってなんのことだっけと一瞬ためらったけど出る前にニュースでやってた女優と俳優の授かり婚のことかな。

「あーみたみた、授かり婚ってニュースでしょ。やっぱり噂通りの展開になったよね」

「おぉ、さすがユキ! あれって言っただけでわかるとは……さすがズッ友だわ」

「ズッ友ってなんだし、最近そんなこと言わなくない?」

「え、そっかな? そうだっけね?」

 ホームルーム前にはなんでかは忘れたけど、アヤの机の横に行っていつも三人で喋る。と言っても実質喋ってるのは私とミサの二人だけ。

「ミサってたまに言い回しが古いよね。そこまで古くないってのが笑えるけど」

「そう言うなし! これでも現役らすとじぇーけーなんだゾ! まだまだこれからなんだゾ!」

「はいはい、自分で言うなしウケるわー」

「あ、そういえばさーユウってササキなんとかっていうグラビアアイドルと付き合ってなかったけ?」

 とミサは話を急に戻してきた。どうやらこのまま行くと自分にフリな話に持っていかれそうだとでも思ったんだろう。だから私はいつもと同じように話を何事もなく戻す。

「うっわーそれ最低じゃん」

「いやでも、あの顔であの歌声で金持ってそうでってどうよ?」

「そら股開きますわ」

 自分でも下品だと思った。少しやらかしたなとか思ってたけどミサの方はあまり気にしていないけど、アヤはどう思っているんだろう。

 登校してから私とミサの間に挟まれてるだけ、挨拶程度しかまだアヤの声を聞いていなかった私はアヤに。

「ねえアヤはどう思う?」

 と聞いた。

「どうと思うって言われても……」

 声の音量は小さいのだけど、きれいに耳に聞こえるユキの声は聞いていて何故か落ち着く。

「あれ、アヤ照れてね?」

 そんな声の余韻を消すようにサキが私とユキの間に割って入ってきた。

 アヤの顔を覗き込むサキ。そんな覗き込みに対して更に恥ずかしがるアヤ。

 相変わらずサキのこの見つめる攻撃に慣れていないのかみるみる赤くそまるアヤの表情。

「やっぱアヤ顔赤くなってる! カワイイ!」

 そんなアヤを見ていたサキが我慢できなくなったのか、右肩に向かってハグを決めるミサ。

「ちょいミサ辞めなよ、アヤいやがってるじゃん」

「え、そうなの?」

 ミサとアヤはここの高校に入ってから知り合った二人。

 ある意味イケイケなミサと違ってアヤはなぜか壁を感じる。

 ミサキあらためサキって呼べるようになったのは入学して本当すぐだったけどアヤって呼び捨てできるようになったのは実はここ最近だったりもする。

「そだよ。ミサってめっちゃアヤ見ると軽く暴走もーど入るよね」

 と少し呆れながら笑いながら私はミサにそう言うと。

「当たり前じゃん! カワイイもの見るとぎゅーってしたくなるんだもん! しかたない! 理性が持たないんだもん!」

「かわいいを前にすると獣になるってこと……?」

「獣って言い方可愛くないから、なんか良い言い回しないかなー」

「野獣?」

「いやいや、野獣って獣より酷くなってるから! 可愛さ遠のいてるから!」

「まあミサは可愛さ偏差値なかなかあるから野獣でも大丈夫だと思うよ。勉強の偏差値はまぁ……お察しだけど」

 ミサは確かに男受けいい顔をしている。鼻筋も高いし、なにより天然二重。化粧も私に比べれは全然上手だし。そんなのところで少し嫉妬するのは嫌だけど、でも頭の方は正直よろしくない。

「勉強の方はいいんです! 大丈夫! 生きてれば御の字だから!」

「御の字って」

 と自然に私は笑ってしまった。

 ミサはこういうところが好き。私が必死に隠してる嫌味もないし、話も合わせやすいし、何よりも波長があってるんだと思う。

 でもアヤはどうなんだろう。未だに私にはよくアヤの考えが分からない。

 実際問題この三年間の中でアヤと二人っきりで遊んだことは一度もない。ミサと一緒に三人でっていうのはあるけれど、アヤと二人っきりはない。ミサと二人っきりは何度もある。けどその度に何故か申し訳なくなってアヤに報告をする。

「つーか今日の選択の科目めちゃだるい日なんだよねえ」

 ミサは勉強と言うキーワードで今日が週の中でも山場な日だと言うことを思い出したらしく不意に言った。

「あ、そういやそうだったね。私は楽な日だから楽勝」

「あたしと変わってくれない……?」

「いや無理でしょ、そもそも入れ違っても顔体型全然違うし」

「そうだった……でもワンチャン、ユキをポニテにしてあたし風のメイクすれば……」

「いや無理っしょ。身長違うし」

「いやいや! やってみることに価値があるんだって!」

「やったところで私に利点があるならやるけど、なくない?」

 ミサは少し考えて、私の目をしっかり見て。

「ゴトウ屋のプリン一年分奢る……これでどうだ!」

「私プリン嫌いなんだけど」

 ミサは自分が好きなモノが真っ先に頭に浮かんでしまったようで、私がプリンが嫌いだと言うことを完全に忘れていたようだった。

「あ、そうだった、それあたしが好きなモノだったわ」

 申し訳なさそうな感じを一切出さずにケラケラと笑った。

 ミサの笑い声を聞くと何故か私も自然と笑ってしまう。

 二人でバカみたいに笑っている、私達の間で一人、アヤは放心状態でいた。

 普段は私達が笑えばアヤも笑っているはずなのに、なにか考え込んでいるのか机を見つめ続けていた。

「アヤ? どうかした?」

 私の声に反応してようやく現実に戻ってこれたようで、アヤは申し訳なさそうに。

「あ……ちょっとぼーっとしてて話聞いてなかった……です。ごめんなさい」

 アヤはいつも敬語で喋る。三年一緒に居るのに、いつも、いつも敬語。どんな時でも。

 私は何故かミサの方を向いてしまった。アヤではなくミサを見てしまった。そうだ、こういう時だからこそ、これを言える、と思った。

 アヤは私達にこれを言わせせないためにか、なかなか隙を作らない、いやそう私達がかってに思っているだけなのかもしれないけど。

 私とミサは何故か顔を合わせてしまった。そうだ。こういう時だからこそ聞けることがある。ミサも多分そう思ったに違いない。

「もしかして今ぼーっとしちゃってた?」

 ミサがアヤに聞くとアヤは申し訳なさそうに。

「うん……」

 と消えそうな声の大きさで言った。

 タイミングは今しかない、だから前から思っていたこれを聞くことにした。

「じゃぁ、そんなアヤに罰を与えます。好きな人を教えて」

 私はしっかりとアヤの目を見てそう聞いた。本気な質問だとちゃんと思ってほしかったから。

 その質問にアヤは困ったような感じだった。なんと答えていいのか分からない、むしろ好きということすら分からない。そんな雰囲気。

 でもアヤはなにかを答えようしていた。もう少しで、もう少しでアヤの本心が聞ける。

 アヤの口が開きかけたその瞬間、チャイムが学校中に鳴り響くと同時に担任が教室に入ってきた。

 こうなったら聞くもなにもない。

 私とミサは自分の席に戻るしかない。でもまだチャンスはある。だから私は席に着く前にアヤに。

「昼休みに改めてちゃんと聞くから、答えちゃんと考えておいてね」


 ホームルームが終わって皆、選択してる授業を受けるため別々の教室へと分かれる。

「さっきのアヤ初めて見る感じでなんか新鮮だったわー」

 と私と一緒に教室に向かいながらミサが言った。

 うちの学校は大学みたいなフレキシブルな授業を選択させるのが校風。私とミサは取る科目を別に合わせては居ないけど何故だか結構授業が被る。アヤは逆に一つも被らない。

「だね。三年間一緒に居るけど、あんな反応始めてみた」

「もっと素を出してくれればもっと仲良くなれると思うんだけど、なんかアヤって自分を出さないというか……」

「自分がない?」

「そうそう。ユキもそう思ってた?」

「思ってた。もっとこうグイグイ来てほしいけど、でもそのグイグイがないのがアヤのいい所でもあると思う」

「癒やされるよねアヤと一緒だと」

「癒やしかー……癒やされるのは分かるんだけど、中身が空っぽすぎるというか」

「ミサそれ言い過ぎ」

 言い過ぎたと思ったのかミサはバツの悪そうな顔をして。

「ごめん……でもね……」

「でも?」

「最近思うんだ。どうしてあたし達ってアヤと友達してるのかなって」

 アヤと話すようになったのは入学した時に私の隣の席に座っていたのがアヤだったからだ。私経由で仲良くなったミサがそう思うのも無理もないと思う。

「それ考えたら駄目なやつだと思うんだけど」

「だよね……ごめん……今日のあたしなんか変だわ」

「昼間でには入れ替え頼むよ本当。アヤの答え聞けるんだからさ」

「アヤの好きな人かーどんな男の人なんだろうね」

「うーん……」

 私が聞きたいのは別に異性の好きな相手ではない。ミサは流石にそこまでは分からなかったみたい。

「とりま授業だるいね」

 答えを濁した私に対してミサは話の話題をそう変えた。

「そだね。とりあえず昼までお互いがんばりやしょ」


 昼前最後の授業はミサとも別になり、私は一人で教室に戻る。

 自分たちの教室の一番近くの教室で授業を受けてるアヤが一番最初に戻り、その次にミサが戻っている頃だろう。

 だいたいあの二人で居る時の姿は目に浮かぶ。ミサがアヤに抱きついたり頭撫でていたりそんなスキンシップというセクハラをしているに違いない。いつもそうだから。

 そんな事を考えながら教室の扉を開けると私が思っていた光景とは別の姿がそこに広がっていた。

「アヤちゃんすごいね! イマイ先生の授業でも寝ないの?」

「はい……」

 それを聞いてアヤの周りに居るクラスメイトが歓声を上げていた。

 輪の中心にアヤが居る。三年間同じクラスだったのに今まで見たことのない光景。

 私はその輪の中に入り、一人の生徒に。

「どうしたんこれ?」

 と聞くと、どうやらアヤが授業中に一度も寝たことがないらしく、それを聞いたミサが大声で皆に言った所面白がって輪が出来たということらしい。

 こんな光景を見たのは初めて。私は何故か嬉しくなって、目が合ったアヤに。

「そっかー知らなかったよ、アヤにそんな特技があったなんて」

 内心さっきの答え聞きそびれちゃって残念だけど、アヤが嬉しそうだからとぐっと我慢をした。


 午後の授業が終わり、帰りのホームルームも終わり、普段だったら私、ミサ、アヤの三人で駅まで一緒に帰るのだけども、今日はミサに用事があるらしくアヤと二人で帰る。

「今日は良かったね、クラスの皆といろいろ喋れて」

「はい」

 そっけなく答えたアヤだったけど、顔は少し嬉しそうだった。

「そういえばさ、昼食にする予定だったアヤの好きな人の話流れちゃってちょっと残念」

「えっと……」

 アヤの顔は先程の嬉しそうな顔から反転して引きつった顔になった。思い出したくないことを思い出させてしまって申し訳なくなってしまった私は。

「冗談だよ冗談、ごめんね」

「冗談ですか……辞めてくださいよユキさん……」

「本当は結構マジで聞きたかったちゃ、聞きたかったけどね。でもいいんだ、アヤのああいう姿見れて」

「ああいう姿?」

「うん、嬉しそうっていうかーなんて言うか、アヤってさ、普段――」

 私達と一緒にいてつまらなさそうというか、気を使いすぎてるというか、もっと自分を出してほしいかったりもするんだ。自分を見せてくれるともっと色んな人と仲良くなれるていうか、なんていうか。包み隠さないほうが好きな人も居るからさ。

 って言いたかったんだけど、ちょうどミサからの着信があり。

「あ、ごめん、ミサからだ。ちょっと出るね」タイミングが悪いなと少しイラとしながら「もしもーし、どった?」

『帰ってる途中にごめんね! ムライ先生がこの間の提出物ユキのぶんだけ出てないんだけど、どうなってるの? って聞かれたんだけど、ユキ確かちゃんとやってたよね?』

「えっマジ? あー! ロッカー入れっぱなしだわ」

『あたし出しておこうか?』

「鍵掛けちゃってるから今からそっち向かうわ。電話してくれてありがと」

『どういたまして』

「先生にじゃぁ言っておいて、今から行きますってって、んじゃ、よろしくね」

『はいはーい』

 ミサとの電話を切り、歩くのを辞めて、アヤの目を見て。

「ごめんね、提出物ロッカーに入れっぱなしで、ちょっとそれ出してから帰るから先に帰って」

 私はアヤの答えを聞かずに来た道を小走りで戻る。


 学校に付き、慌てて自分のロッカーへ向かい、鍵を開け提出物を探した。

 我ながらめんどくさいことをしてしまった、というか今提出してちゃんと先生が受け取ってくれるかも少し心配。

 提出物を見つけ、先生に提出するため夕日沈む廊下を一人歩く。なんかアヤに悪いことしてしまった一日だったなぁとか思っていると、私の再び携帯が震えた。

 またミサかなとか思いながら携帯を見ると思いがけない人からの電話で、少し驚きつつ、通話をタップし耳に携帯を当て。

「あ、もしもし、どうしたの――」

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Shadow Self, G.E. @g_e_

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