Shadow Self,
G.E.
open self,
私はいつも同じ夢を見る。
その夢はいつもいつも同じ光景で同じ人が出てきて、同じ結末を迎える。
寝ている私が本当の私で、起きて行動している私は実は夢の中の私なのではないだろうか。そんな夢想をするほどその夢は現実味を帯びすぎている。
最近は夢の中での体験なのに触った感覚すら覚えているほど。
だけど不思議なことにその夢は音が一切聞こえてこない。空気が震える音、人々が作る人工的な音、人の声、私の声、私の鼓動、なにも、なにも聞こえてこない。
だから私はまだ現実世界と夢の世界の線引が出来ている。
音が聞こえる世界が現実、聞こえない世界が夢。
―――
――
―
「ねぇ、ユウとケイのあれみた?」
「あーみたみた、授かり婚ってニュースでしょ。やっぱり噂通りの展開になったよね」
朝のホームルーム前の友人二人の話題は有名バンドのボーカルと女優の結婚報道で始まった。
ニュース自体は投稿途中の電車の中でネットニュースを読んでいたのである程度の内容は知っているつもりだったけど、私にとってはそこまで興味のある話題でもなかったので話と話の間に適当に相槌を打って友人達との会話を一応楽しんだ。楽しんでいると思うことにした。
でも、結局そこまでその話に興味のない私はこの二人との話を聞きながら頭の片隅で別のことを考えていた。もしもこの会話の途中で相槌を辞めて「私、実はそんな結婚報道なんて興味ないんだ。なんか別の話しよ?」なんてことをこの私の横に居る二人に言ったらどんな反応をするんだろう。
変なやつと思いながらも話の話題を変え私がほんとうの意味で興味のありそうな話題に切り替えるのか、それとも、空気の読めないやつと軽蔑しながら私の横から消えていくのだろうか。
多分、この二人は前項を選ぶだろう。私なんていう変わり者と一緒に居る優しい二人だ。でも私に前項を選ぶと言い切れる自身もない。心からこの二人と喋ったことがないから。
いつもこの二人の間に居るのが私。
話を聞いているのが私。
喋ると言ってもいつも一言、二言なのが私。
もうこの高校に入学して三年間も一緒に居るのに変わらない関係性。
「おぉ、さすがユキ! あれって言っただけでわかるとは……さすがズッ友だわ」
「ズッ友ってなんだし、最近そんなこと言わなくない?」
「え、そっかな? そうだっけね?」
「あ、そういえばさーユウってササキなんとかっていうグラビアアイドルと付き合ってなかったけ?」
「そう言えばそうだよね、もしかして二股してできちゃった方と籍入れた感じなのかな」
「うっわーそれ最低じゃん」
「いやでも、あの顔であの歌声で金持ってそうでってどうよ?」
「そら股開きますわ」
二人の会話は一度脱線しかかっていたのにまだ戻ったと思ったら更に脱線を始めていたけど盛り上がりは明らかに先程の比ではなかった。
「ねえアヤはどう思う?」
と相槌ばかり打つ私に友達の一人ユキさんが私に聞いてきた。
「どう思うって言われても……」
「あれ、アヤ照れてね?」
ともう一人の友達のミサキさんが私の顔を覗き込んできた。
確かに股を開くとかそういう話は苦手だ。聞き流しているつもりでもそういう話は耳に入ってきてしまう。もしかしたら顔が赤面しているのかもしれない。正直恥ずかしかった。
ミサキさんは私の顔を見て。
「やっぱアヤ顔赤くなってる! カワイイ!」
と私に抱きついてきた。
右肩に女性特有の豊満なものが触れる感触がした。私と比べると大きいそれが少し憎い気もしたけど、この感触は嫌いじゃない。でも自然と頭は下に下がってしまった。
「ちょいミサ辞めなよ、アヤいがやってるじゃん」
別に嫌というわけではない。恥ずかしいだけだ。こんなことを朝からしていれば他のクラスメイトも私とミサキさんのことを見てきているかもしれない。
「え、そうなの?」
何かを察したようなあっけらかんとしたミサキさんは私の肩から離れていった。
少し寂しいような、軽くなって、周りから注目もなくなって嬉しいような、複雑な気分が私を襲った。
私はこの二人の前ではいい人でいたいと常に思っている。いやいい子を演じている。
この二人が居なければ私はこのクラスで一人になってしまう。
別に一人が嫌だってわけでもない。けど一人は嫌い。
放課後この二人と遊んだりすることもある。けどそれは私が誘って遊んでいるわけではない。だいたいこの二人のどちらかが主導して遊んでいる。この二人だけで遊んでいる時もあるみたいだけど、その時は申し訳なさそうに私に事後報告を二人でしてくる。
別にやましいことをしているわけじゃないのになんで誤ってくるんだろう。
「アヤ? どうかした?」
とユキさんが私に聞いてきた。
いつもはちゃんと聞いているのにいろいろなタイミングが悪く、自分の世界に入っていた私は、話の流れがどこに行っているのかわからなくなっていた。
「あ……ちょっとぼーっとしてて話聞いてなかった……です。ごめんなさい」
ユキさんとミサキさんはなにか企むような顔をして。
「もしかして今ぼーっとしちゃってた?」
不敵な笑みでミサキさんは私にそう聞いてきた。
今そう言ったのに……と内心で思いつつ。
「うん……」
「じゃぁ、そんなアヤに罰を与えます。好きな人を教えて」
ユキさんは私の目をしっかりと見てそう私に聞いた。
罰ってなに。そもそも話の流れで好きな人の話をしていたとかならまだしも二人の反応からして突発的に聞いてきたのは確かだし。
「ほらほら、ハヨ言わないかねー」
ミサキさんが私のほっぺたをつんつんしながら答えを催促してきた。
好きな人も何も私は正直あまり他人に興味がない。模範的は答えなら学年で有名な男子の名前でも言えばいいんだろうけど、名前だけ知っているだけで顔もあまり知らないし正確も知らないし、そんな人を好きと言えるほど二人の中の私は軽くないと思うし。
いない。と、一言言えば楽になれるのは分かっているけど、それはそれで照れているとか言われそうだし
正直どうすればいいのんだろう。解き方のわからない数式が目の前にあるような、でもいう答えはなんとなく分かっているのに……どうすればいいんだろう。
口を開こうした瞬間、ホームルームを開始を告げるチャイムが学校中に鳴り響き、それを合図とした先生が教室に入ってきて。
「ホームルーム始めるからお前ら席につけよー」
と生徒達に告げた。
助かった。と思った。けど私の考えはすぐにおられた。
ユキさんとミサキさんは席に戻る時にこう言い残して戻っていったからだ。
「昼休みに改めてちゃんと聞くから、答えちゃんと考えておいてね」
私の通う学校は三年間クラス替えをしない。その変わり二年生から大学みたいに自分で授業を選択するようになり、三年生になるとほとんど選択の授業となってしまうので、クラスメイトと顔を合わせるのは朝のホームルーム前と昼食、それから放課後のホームルームくらい。しかもあの二人と私の選択している授業はある意味真逆なとり方をしているから、会うと言えば朝と昼と帰りくらいなもの。だからさっきみたいな事を言い残していったんだと思う。
午前最後の授業が終わり、みんな一斉に自分たちの教室へ帰る。
私もその流れに乗り教室へと戻る。
足取りは重かった。
午前中の間ずっとさっきの二人が出した問題の答えを考えていたけど、結局なんて言えばいいのか分からずに、ただ時間だけが過ぎていってしまったから。
教室に戻り自分の席に座る。まだあの二人は帰っててはいなかったので、私は目をつぶり小さく皆にばれないように深呼吸した。
と同時に後ろから誰かに抱きつかれた。
この感覚、ミサキさんだ。
「あーやーなに深呼吸なんてしちゃてるの」
ミサキさんはユキさんより一足先に戻ってきたらしく、私の耳元でそう呟いた。
「いやー午前中の授業ほんとめんどくさいわー、今日なんて天気いいから尚更めんどくさいよねぇ」
「そうかな?」
「え、眠くならない? 授業中ってめっちゃ眠くない? てか寝ちゃわない?」
「寝たことないかな……そもそも私は眠くならないし……」
「え、マジで!」
と私に抱きついたまま声を荒げるミサキさん。
そんなに驚くことなんだろうか、正直私には分からない。なんせ眠くなる時はいつも決まって家のベッドの中に入ってからだし、そもそも寝るとあの夢を見るから寝るのがあまり好きじゃない。
「ねーねー、皆聞いてよ! アヤ授業中寝たことないんだって! すごくね?」
昼食を食べに戻ってきていた大半の生徒に大声でミサキさんが告げると、何人かのクラスメイトが私の前にやってきて、私に同じような質問をし始める。
あまり目立つのは好きじゃない。でも、こういう溶け込んでいる感は嫌いではない。我ながら面倒な人間だと思う。
そんな状態に陥り、私の周りに輪ができてる状態になった後にクラスに戻ってきたユキさんは少し戸惑いつつ。どうしたんこれ? と私とミサキさん、それと周りにいる生徒に聞いた。
周りから話の流れを聞いたユキさんが少し嬉しそうな顔をして。
「そっかー知らなかったよ、アヤにそんな特技があったなんて」
と微笑んだ。
結局、私の好きな人を聞くような雰囲気ではなくなり、私的には一安心だった訳だけど、変な風にクラスから注目されるのは逆にイレギュラーなことだった。
小学校の時も、中学校の時も、なんだったら幼稚園の時も、目立たないで、それでいて虐められないように、虐められないようにと、影からクラスに溶け込んでいた私にとってある意味それが初めて日の本に出れたようなそんな気分だった。
午後の授業が終わり昼食後バラバラになっていたクラスメイトが教室に戻り帰りのホームルームをする。
午前中の授業と違って午後の授業はなんだか不思議な高揚感に包まれていて時間が立つのが早かった。
そんな私を裏腹にクラスメイトは先程あった私の話などは忘れてもう別の話題を展開しているのが、少し寂しい気もするけど、あの二人を見ていれば同年代なんてそんなもの。と片付けれることも出来る。
ホームルームが終わり、普段であれば駅までユキさん、ミサキさんと一緒に向かうところだけど、今日はミサキさんは用事があるらしく、珍しくユキさんと二人で駅まで向かう。
私はこの駅に向かうまでの道中もあまり好きではない。
なぜなら夢の舞台がいつもこの帰り道だから。
一人では絶対に帰れない、私だけの秘密。
「今日は良かったね、クラスの皆といろいろ喋れて」
そんな私の心境を知ってか知らずかユキさんが私に問いかけてきた。
「はい」
「そういえばさ、昼食にする予定だったアヤの好きな人の話流れちゃってちょっと残念」
「えっと……」
ユキさんははにかんだ笑顔で。
「冗談だよ冗談。ごめんね」
「冗談ですか……辞めてくださいよユキさん……」
「本当は結構マジで聞きたかったちゃ、聞きたかったけどね。でもいいんだ、アヤのああいう姿見れて」
「ああいう姿?」
「うん、嬉しそうっていうかーなんて言うか、アヤってさ、普段――」
ユキさんがなにかを言いかけた時、ユキさんのカバンに入っていた携帯電話の着信が周りに鳴り響いた。
携帯を取り出し誰から電話が掛かってきているのかを確かめて。
「あ、ごめん、ミサからだ、ちょっと出るね――もしもーし、どった?」
と私との会話を中断し駅に向かいながらユキさんは電話越しにミサキさんと話始めた。
私は未だにこの二人をさん付けで呼んでいるが、この二人同士はユキ、ミサで呼び合っている。もちろん、私のこともさんを付けつことなく呼んでくれる。私もそうしたいところだけど、もう三年間もさんを付けて呼んでいると今頃というのも心境にある。
「えっマジ? ――……」
歩くのを辞め、横にいる私の方に振り向きたユキさん。
突然声を荒げてる感じからすると、学校に居るミサキさんになにかがあったのかもしれない。
「……――先生にじゃぁ言っておいて、今から行きますってって、んじゃ、よろしくね」
通話を切り、ユキさんは話し相手を私に切り替えて。
「ごめんね、提出物ロッカーに入れっぱなしで、ちょっとそれ出してから帰るから先に帰って」
と言い残し、ユキさんは少し急ぎ足で学校に戻って行った。
―
――
―――
一人、夕暮れの下校道を歩く。
下校時刻だと言うのに私の周りには不思議と誰も居ない。いつもと変わらない、いつもと変わらないはずの風景なのに、今日は一人で歩いている。最初から一人であればまだ決心はできる。でも今日は突然すぎる。
一歩一歩駅に向かえば向かうほど、あの夢に出てくる交差点に近づいてくる。
学校に戻ることも考えたけど、今から戻ってあの二人の帰りについて帰るのもなにか変な気がするし、今日はもう諦めるしかない、と自分に言い聞かせる。
あそこの角を曲がれば、あの交差点が出てくる。
嫌だなと思いながらも、交差点を渡らなければ駅に行けない。
そうだ。今日はいいことがあったじゃない。だから夢といってもあの夢通りになることなんてない。
もうすぐ完全に日が沈み、月が太陽の変わりに街を照らし始める。
この光景、この雰囲気、まさか、まさかね。
そんなことを思いながら角を曲がると、正面に夕日に照らされた交差点が広がった。
この時間、いつもなら人がいっぱい居るはずのに、そういえばユキさんが帰ってから、人とすれ違ったけ……これは、夢……そんな訳ない。私はさっきまで学校に居て、それで……。
でも、人が居た。
これも夢で見る通りだ。夕日を背に背負っているせいか顔が影になって誰かはちゃんと分からない、誰かが交差点の真ん中に立っていた。
信号は歩行者用も車用もどちらも赤で点滅を示している。
夢はいつもここで終わる。夢なら覚めてほしい。
「でも今あなた、これは夢じゃないって自分で考えてたじゃない」
夕日を背負、人としか認識できなかったそれが声を発した。
それもどこかで聞いたことのある声だった。
「びっくりした? 今日は嬉しいことがあったのね、良かったじゃない」
その影な人が喋る度に夕日がどんどん沈んでいく。こんなのは普通ありえない。
「初めて日の本に出れたのね、良かったわね」
影が私の方に向かって歩き始める。
こんなの初めてだ。夢の中で影は私のことをただただ見ているだけだったのに、今日はなんで喋ってるの。なんで歩いてるの。恐怖が体を支配しているのか、体が動かない。
日が完全に沈みあたりが一瞬真っ暗になったと同時に、私の後ろに月が出てきて周りを照らすと同時に、今まで影にしか見えなかったものの正体が私にはっきりと見えるようになった。
「私……?」
「そう、わたし」
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