第2話 母親修行
あの子の保護から数日後、アリツに世話を任せ創作に打ち込んでいると、ムッとした顔のキリンに机を叩かれた。
「タイリクさん。キリくんの為にも手料理は作れる様になるべきです」
アミメは突然そんなことを口にしてきた。
「それじゃあ君がやってくれ。
私は忙しいんだ」
本職は見知らぬ子供の世話をする事ではなく、漫画を描く事だ。
「そうやって面倒も私やアリツさんに押し付けてばかりじゃないですか!」
「元凶は君だろ。8割方君にあの子を保護する権利があるんじゃないのか?」
「タイリクさん自分であの子の母親だって言ったじゃないですか!」
「建前に決まってるじゃないか…」
「もういいですよ。タイリクさんがそう言うだろうと思ってましたから、もう手は打ってありますから」
「何?」
思わず彼女を睨んだ。
「おい、タイリク!行くぞ!」
扉を開けて入って来たのはセルリアンハンターのヒグマだ。
彼女は私の両腕を掴み椅子から引きずり降ろす。
「何する気なんだ!離せっ!」
「タイリクさんには母親になる修行をしてもらいます」
腕を組んだアミメはそう言った。
「ふざけるな!だから母親にはならな...」
「うるさい黙れ!!」
ヒグマの怒号が飛んだ。
私が誘拐された先は図書館だった。
「お前には料理を作れる様に修行してもらう。これはアイツが残したレシピだ。
これを再現して博士たちを唸らせて見ろ」
ヒグマは紙切れを渡した。
わかりやすく絵で手順が示してある。
「ヤダよこんなの...。面倒臭い」
「お前がやらなきゃ意味ないんだよ。
我が子の嬉しそうに喜ぶ顔を想像してみろ」
「だから...、アイツは私の子供でもなんでもないって...」
「ふうん。お前が手を差し伸べなきゃ、
アイツは一生ひとりぼっちだぞ?」
真剣な眼差しをタイリクに向ける。
恐ろしさなのか、それとも、威圧の為か、
二の句が告げなかった。
「わかったんなら、作れ」
「アミねえちゃん、ママどこにいるの?」
「ママはキリくんの為に、頑張ってるんですよ」
「本当?ママ、僕を置いて行ったんじゃないの?」
「あの人はそんな冷酷じゃないですよ」
(で、なかったらタイリクさんがあなたの母親だなんて言いませんよ...)
「ほら、出来たよ...」
カレーを作り、2人に差し出した。
「見た目は平気そうですが...」
「味の方は....」
ゆっくりと口の中へ運んだ。
「...何なのですか!!これは!!」
「食に対する冒涜です!!」
スプーンをバンッと机に叩き付けた。
「野菜が固すぎる!」
「味が薄すぎる!」
「ご飯もベチャついてて...」
「とにかくまずいのです」
博士たちは怒り心頭だった。
「ああ、やっぱ私に料理の才能はないから他の人に頼んでやってもらうね」
そう諦めたフリをし、立ち去りたかった。
が...。
「やっぱりな」
腕を組んでヒグマが言った。
「は?」
「だろうと思ったよ。私が料理を教える」
「いいよ...、本職そっちじゃないでしょ」
遠慮しがちに手を振る。
「そういう問題じゃない。
御託はいいから、さっさとやるぞ」
「え、えぇ...」
それから数時間後。
とても疲れた様な顔をして
「ただいま...」
「あ、タイリクさん!」
「ママ!」
「待たせたね...、でも、私の仕事はこれからだから」
ヒグマから借りてきた道具を広げた。
「タイリクさん...、それって...」
「ああ...」
それから1時間くらい経っただろうか。
初めての手製の料理を振舞った。
しかし、中々緊張するものだ。
「...タイリクさんの料理美味しいですよ!ねえ?」
「うん!」
ハァー、と疲れ切った息を吐いた。
ホッと一安心だ。
(とりあえず、料理はオッケーか...。
しかし...)
“タイリク、明日は裁縫だからな”
(母親やめたいよ...)
彼女の修行はまだまだ続くのであった。
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