第11話 フリーダイビング

ここで勝負が決まるかも知れない384階、そう、最上階の1歩手前の階だ。


司会者のテンションを無理やり上げたような金切り声が響き渡っている。


ファイナルステージになるかも知れないステージ。


問題は…全く予想できないものだった。


それは、ドリームタワーの目玉のひとつである、天空のダイビングプール、364階から384階に渡って作られた巨大な水槽に沈められた385階への扉を開く鍵を拾うこと。


それがミッションだ。


その深さは60m!ビルの20階分の高さと同じだ。


夢の島学園チームは早速ヘルプを使い、遠隔操作出来る小型潜水艇を手に入れた。


そして希望の島中学校チームは…


ヘルプを使えない絶望的な状況のなか、マコトが服を脱ぎ始めた。


あのよく陽に焼けた健康的な肢体があらわになっていく。


マコトは潜る気だ。


無茶だ止めろ!ミノリが声をあげた時、マコトはフゥと大きく息を吐き出した。


その場の雰囲気がガラッと変わり、ミノリは言葉を飲み込んだ…


司会者も言葉を途中で止めてマコトに魅入っている。


マコトはスゥッと短く深く息を吸い込むと、目を閉じ音も立てずにプールに飛び込んだ。


マコトは何も考えずに水になろうとした。


何かを考えること自体が脳にエネルギーを使わせ酸素を消費してしまう。


マコトは最小限、最大効率の動きでゆっくり大きくしなやかに真っ暗なプールの底を目指して沈んでいった。


ある深さまで達すると肺は水圧に押しつぶされ、水をかかなくても自重で沈んでいく。


しかし水面に戻る際には、体は浮かずに自力で泳ぎ戻らなければならないのだ。


無茶だ!いくらマコトでも絶対に無理だ!心の中でそう思っていても見守るしかないミノリが、トモやタツミ、ユウを見回すと、3人はモニターに映し出される今も潜水を続けるマコトの姿をじっと見つめていた。


その目には怯えも疑いもなく、ただマコトを信じていた。


ミノリもマコトを信じることにした。


ダイビングプールの底に向かうマコトは水と一体になろうとしていた。


でも毎日潜っている希望の島の海とはまるで違う違和感にマコトは戸惑っていた。


ここには命の息遣いがない。


ここは生き物の居場所ではない…夢の島に入った時に感じた違和感もそれだった。


作られた自然、作られた美しさ、作られた笑顔、そういったものにマコトは恐怖を感じたのだった。


怖い。


途端に急に胸が苦しくなる。


目を開けるとプールの底に沈んだ鍵はもう目の前だ、マコトが鍵に向かって手を伸ばし、鍵を握りしめると水面を目指す。


水面まで60m、次第に明るくなる水面が急に真っ暗となるとマコトは意識を失った。

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