第四章 自宅
第四章
二人で一緒に電車に乗った、私の隣に深海が居た、多分今日までは深海は少し離れた所から隠れて私を見ていたんだろうが、今、私と深海の間にその壁はなかった、だが、二人の間に言葉が行き交うことはなかった、二人の世界ができたとしても、そこにあるのは沈黙のみだった、私は窓から外を見ていることしかできず、深海はずっと下を向いていた、私のことを見ようとしなかった。
最寄りの駅について、家に着くまでも二人の間には沈黙しかなかった。
家に着く、
しばらく二人で何も言わないまま家を見ながら佇んだ、
「その怪我、手当てするから上がってよ」
家を見たまま、目も合わせずに私は呟いた
顔は見なかったから、深海がどんな反応をしたのかは分からなかったが彼は黙って私に着いてきた、
家には誰もいない、しばらく親は帰らないだろう、だから彼を家に入れられる、何か面倒なことを言われるのは嫌だから、
私一人だけのための部屋に彼と二人で入って、部屋の中は二人になる、
実際に人の傷の手当てなどやったことはないが見よう見まねにやってみるしかない、救急箱を取り出して、とりあえず顔の目立つ傷に絆創膏を貼ったりしてみた、
彼は黙ったまま何もしようとしなかった、
絆創膏を適当に貼り終わり、あとは体の方だ、
「傷、見るから服脱いで」
恥ずかしいことではない、手当てのためなのだから、別にいかがわしいことでもない、手当てのためなのだから、
だが、彼は少し戸惑いを見せた、そして私の家に着いてから初めて私と目を合わせた、それも睨みつけるような眼差しで、動かせる左の眼球だけでしばらく私を睨みつけた、
危険を感じた、ヤバイかもしれない、流石にいきなり入り込み過ぎたか、彼は私のストーカーだ、もっと慎重に見ていないといけなかったかもしれない。
どうしたの?
恐る恐る聞こうとした時、徐ろに彼はワイシャツを脱ぎ始めた、ワイシャツの下には長袖の肌着を着ていてまたゆっくりとその薄い布をたくし上げ脱ぎ切った、
私は身構えながらその様子を見ていたが、彼の肌を直接に見て裸を見せることを躊躇った訳を理解した。
彼の両腕の内側に無数の線を見たのだ、凸凹に見えるそれは規則正しくその腕に並ぶ、さっきできた傷とは明らかに違う色を見せるよれは何日もの月日により積み重ねられたものと分かる、
それはいわゆる自傷行為の古傷、リストカットだ、
考えてみると彼の半袖姿すら私は見たことがなかったかもしれない、校則もそこまで厳しくないうちの学校で真夏の猛暑の日でもわざわざ長袖の上着を着て、腕まくりすらしないため「なんて暑そうだ」と思ったことがあった、
そして、さっき、深海のポケットから自然と出てきたカッターナイフの理由も、理解した。
動揺を見せてはいけない、触れれば何かを壊してしまう気がしたから、何も気にしないように手当て続けた。
それ以降一言も言葉を交わさないまま手当てを終えた。
ぎこちなく巻かれた包帯に少し動きにくそうにしながら深海は服を着ようとした。
私は、深海の手を取ってそれを止めた。
「待って」
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