第二章 深海 悠馬



ひどく頭が痛む。


少しも眠れなかった、昨日のことは夢ではないことをハッキリと実感する。


非日常的な空間を味わうと日常が異常のような気分になる、当たり前のように生きているクラスの奴らを見るだけで体の中にある何かが口から飛び出してしまいそうになった。


この当たり前が異常なのか私が異常なのかもわからない。


考えてみた、あいつがなぜ昨日あんな雨の日に、外で私の後ろにいたのか、なぜ死体を隠すようなことをしたのか、



そして一つの答えを見つける、あいつは私の「ストーカー」だ。



そして、あいつは知っていたのだ、この日常の異常さを、地獄のようなこの世界を。


深海ふかみ悠馬ゆうま」、学校1のいじめられっ子、いじめの規模は「学校全体」。


いじめの原因は、言えばその不自然な顔だ、なにかの後遺症だろうか、深海の顔面は右半分が全く動かない、左の眼球が動いても右の眼球は常に同じ位置で同じ方向を見ている口も動かないので左に引きつるような顔になる仮に笑顔を作られても左側だけが笑い、右側は無表情なのでとても不気味なのだ、ただ、それだけだった、


私も直接彼に何かしたことはないが周りと一緒になって彼を避けていた。




それでも彼は昨日、私を助けようとしたのだ、彼は本当に私を守ろうとしたのかもしれない。



「美咲!大丈夫?顔色悪いよ?」


友達の「相川あいかわ 琴音ことね」の声がした、友達の彼女さえ、私とは違う世界にいるような気がする、大丈夫な訳はないのだがその理由は絶対に言えない。


「あぁ、平気平気」


「次、体育だよ、更衣室行こ、」


「あ、うん」


運動などできる状態ではない。









体育の時間の記憶はほとんどぶっ飛んでいた、ただ、頭にバレーボールが当たって倒れてしまったらしい


「今日はもう帰った方がいいんじゃない?荷物持ってきてもらって、先生には伝えとくから」


私は保健室のベッドの上で保健室の先生の声を聞いていた。少しの間、私は眠っていた、それでも頭の痛みは改善しない、今後一生後遺症になってしまうんじゃないかと思うほどの体全体に渡る痛み、まぶたの裏には小さい生き物が無数にうごめいているようだ。



「帰ります。」


みんなが当たり前のように授業を受けている学校を背に一人で私は帰った、この孤独は確かな「異常」だった。






乗ったことのない電車に乗ったような気分だった、いつも帰る時間より早く電車に乗ったからだ。乗っている人も射し込む太陽の光もいつもと全く違っていた。


電車のシートに座り、電車の揺れに身を任せると少しだけ気分が良くなった、、



気づくと自宅の最寄り駅をとっくに過ぎ、終点の駅に着いてしまった。



終点の駅はそこら中がギラギラした町だった。とにかく人が多くて、キラキラで綺麗なようでとても汚い町だ。


戻って家に帰ろうとは思えなかった。家は当たり前の塊のような場所だったから、今の私にとって家は一番に居心地の悪い異常な空間だと思った。


その町のことはそれなりに知っている、色々なものの混ざり合った、異様な空間、私はこの町に期待した、この異常な空間こそ私を私の世界に戻してくれるかもしれない。


駅を降りて、自分から汚い方に足を進めた、汚い人が沢山いる、腐った匂いを求めた。



自分自身何がしたいのか何を求めているのかもわからずに初めて歩く道を目的もなくフラフラしていた。



肩が何かにぶつかった、いや、そんな衝撃ではない。ぶつかられた、すれ違い、男が肩の先でタックルするようにぶつかってきたのだ、私は突き飛ばされる、男の高い声が耳に響く、これは、怒鳴り声、体の中の傷が警告を出した、「逃げなければ」だがそれはできなかった、逃げ道はすでにもう一人の男に塞がれた。


こんなはずじゃなかった。


「大丈夫?」


また後ろから声がした、昨日のように、さっきの男の怒鳴り声と違う声だ、怒鳴り声は何を言ってるのかも分からなかったがその声は今日も私の耳が優先して聞き入れるようにハッキリと聞こえてきた、


同時に私は訳の分からない世界から引き戻される、その声が、まさに非現実の夢から現実に起こされるように。


深海 悠馬の声だ。




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