政略結婚をぶち壊しにしてみた(二次創作に組み込む可能性有り)
言葉のイメージにあらざる厳粛な雰囲気に、“結婚式場”――改め、カメリア宮殿――は包まれていた。
何故かと言うと、アルマ帝国皇女ネーゼ・アルマ・ウェーバーと、ある有力国の王子が結婚する為であった。無論政略結婚である。
(ハーゲン……。
貴女との思い出は、忘れません……。どうか、息災であらん事を……)
皇女という、次期皇帝という立場故か。
あるいは、これは自ら選んだ運命か。
今のネーゼには、最早どちらなのかわからなくなっていた。
「行きましょう」
「……はい」
自らの夫となる男に促され、共に道を歩む。
その足取りは、重いものであった。
そして、神官の前に立つ。
「これより――」
神官が開式の辞を述べ始める。
(さようなら……ハーゲン)
全てを受け入れたネーゼは、瞳を閉じ――
「その婚儀、待たれよ!
何を以ってこれをアルマ帝国の総意とするか!」
(え……!?)
現れたのは色白と色黒の計二人の女性、そして漆黒の鎧騎士であった。
「貴様、何者か!」
警備兵が鎮圧しようと、
だが三人は、微塵も動じていなかった。
「ネーゼ・アルマ・ウェーバー殿下が犯そうとしている外患誘致の罪を止めに来たのだ!
鎧騎士が叫ぶと、空中に大剣を生成する。
そして警備兵が振り下ろす剣をかわし、手痛い、しかし死に至らしめない程度の打撃を叩き込んだ。
「ぐっ!」
倒れる警備兵。
それをチラリとも見ない黒騎士は、控えていた女に指示を飛ばした。
「造作も無いな。ディノ!」
「はいよ!」
と、ディノと呼ばれた色黒の女性が紙をばら撒く。
「皆様方!
この紙の中身をお読みになってもなお、只今の婚儀を続けられるおつもりか!」
式の参加者が、紙の内容に目を通す。
「!?」
「これは!?」
「ま、まさか……!」
そして、次々と表情が青ざめていった。
「そこにいる王子は……侵略者が成り代わったというのか!?」
「信じられん!」
「しかし、ここまで詳細に書かれている以上……!」
動揺が広がりを見せる。
好機と見た鎧騎士は、大剣を前に振り下ろした。
――次の瞬間、別の鎧騎士がネーゼ様目掛けて疾走した。
「もう一人だと!?」
「鋼鉄人形部隊は何をしていた!?」
「構わん、取り押さえろ!」
警備兵が続々と、別の鎧騎士の前に立ち塞がる。
「どけ!」
しかし鎧騎士は鮮やかな剣技で、次々と警備兵を打ち払っていった。
そして一同が動揺している隙を突き、ネーゼ様を抱えて走り去る。
「くっ!
しかし、逃がしは……」
偽物の王子が剣を抜き、鎧騎士を追う。
「追わせるものか!」
それを入り口に立つ鎧騎士が、剣先から
「ぐぅっ!」
即死こそしなかったものの、片腕を持って行かれた王子がうめく。
「き、貴様……!」
「キャァアアッ!」
と、一人の女性が悲鳴を上げた。
鎧騎士達の行為にではない。王子を見ての悲鳴だ。
王子の腕からは、青緑色をしたミミズ状の物体が蠢いていた。
「ア……アルゴル!」
「侵略者……!」
動揺に続く動揺。
しかも今度は、鎧騎士達の行為以上の衝撃を伴っていた動揺であった。
何せアルマ帝国は、今まさに侵略者に乗っ取られようとしていたからである。当然の反応であった。
*
『……ふう。
ネーゼ様を助け出す大役お疲れさん、ハーゲン』
『まったくだ。
お前達の機体に乗せてもらうぞ』
そんな状況を尻目に、鎧騎士二人は会話を交わしていた。
『龍野君、ランフォ・ルーザ(ツヴァイ)の起動が完了したわ!』
『わかった、ヴァイス!
ちょっと強引だが、五人乗りで行くぜ!』
先ほどの闖入者の一人である、ヴァイスと呼ばれた色白の女性が、純白の鋼鉄人形の起動を終えていた。既に鋼鉄人形の目は輝いていたのである。
『じゃ、荒っぽくいくぜ!』
『頼むぞ』
鎧騎士は、もう一人の鎧騎士に呟きながら、彼とネーゼを引き上げていた。
「よっしゃ、オレも!」
色黒の女性は脚力だけでおよそ8mの高さを跳躍し、鋼鉄人形のコクピットへと入っていった。
「それじゃ、逃げるぞ!」
龍野と色黒の女性が着席すると、鋼鉄人形は
*
「龍野、そろそろ……」
鎧騎士が、息も絶え絶えといった様子で懇願する。
「あいよ」
龍野と呼ばれた男が指を
そこから、ぴょこんと狐耳が飛び出す。
「お久しぶりです、ネーゼ様」
「ハーゲン!」
鎧騎士の正体は、ハーゲン・クロイツ少佐であった。
「このような再会となってしまい、申し訳ございません」
「はあ……。
ところで、あなた達はヴァレンティアの……ッ、アルマガルム、エグゼ様まで!?」
ネーゼが顔ぶれを見て驚愕する。
結婚式をぶち壊しにしたのは、揃いも揃って、見知った顔ぶればかりであったからだ。
「申し訳ございません、ネーゼ様」
「見過ごす事は出来ませんでした」
「帝国を乗っ取られんのは、オレにとっていい気分じゃねえんだよな」
「ですので、彼ら……いえ、皆様の協力を得て、このような事を」
ハーゲンが龍野達のばら撒いた紙の一枚を手に取り、ネーゼに手渡す。
「……ッ! これは……」
「そうですわ、ネーゼ殿下。
貴女は危うく、“外患誘致”の大罪を犯すところだったのです」
驚愕するネーゼに、ヴァイスは敢えて事実を告げる。
……そう。
ネーゼが手にした紙には、「婚約相手の王子=侵略者アルゴル」の動かぬ証拠が、明確に記されていた。
「これが単なる政略結婚でしたら、私達は手を出していなかったのです」
ヴァイスは目を閉じながら、淡々と告げた。
「……ふふ」
と、ネーゼが笑い始める。
「ネ、ネーゼ様?」
動揺したハーゲンが呼びかけるも、ネーゼには聞こえていない。
「ふふっ、ふふふふふふっ!
これが事実!? これが現実!?
ではわたくしの決意は、一体何だったのでしょうか!? アァッハッハッハッハッ!」
ネーゼは笑いながらも、頬に一条の筋を刻んでいた。
「ネーゼ様!」
ハーゲンがネーゼを抱きしめ、落ち着ける。
それを見た三人は、念話で会話していた。
『気分悪いぜ』
『“事実を突きつける”のは、時としてそういうものよ』
『まあほっといたら、もっとひどい事になってたな。オレはそう思うぜ』
五人はもやもやした気持ちのまま、純白の鋼鉄人形に運ばれていたのであった。
ぶち壊しにしてみたシリーズ 有原ハリアー @BlackKnight
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