第九話 なぜあなたが?
河野先生は笑い終えた後、真面目な顔で私に言う。
「そらっちはクロックのことどう思ってるの?」
「え? どうって……」
正直竜也叔父さんが何で恨まれているのかは詳しく知らない。
もしかしたらとんでもないことをやらかしたのかもしれないし、この先生達の組織に喧嘩を売ったのかもしれない。
でも私は竜也叔父さんが正義であると信じていたい。
いや、絶対そうだ。
「私は竜也叔父さんが何をしたのかは知りません。でも竜也叔父さんの本当の敵を知りたい」
「俺らが本当の敵じゃないと?」
「それはわからない」
自分で言っていてだんだんこんがらがってくる。
「結局わからないことだらけじゃないか。もういい。大空の記憶を消す」
「船田先生。私は記憶を無くしたくありません。記憶がなくなった人間なんてただの兵器になっちゃうじゃないですか」
「それで、いいんだ」
冷酷な船田先生の言葉に固まってしまう。
きっと私は王に相応しくなくビビリだということがそのまんま伝わってしまっているだろう。
「怖いのか? もしかして案外ビビり?」
さっきまでの船田先生はどこへ行ったのやら。
笑いをこらえ、下を向いている。
確かにここについては竜也叔父さんとは正反対だ。
竜也叔父さんは何事にでもチャレンジする強い心を持っていた。むしろ強すぎた。
今その心が初めてうらやましく思えた。いや、認めてしまったのかもしれない。
私は竜也叔父さんには届かないと。
「大空、じゃあやるぞ」
「無理です。船田先生、頂点って何ですか」
「は?」
頂点は必ずしも指導者を指すものではないと思う。
皆から慕われて、認められるのがリーダーだと思う。
その答えがこの組織から出ないようではやはり無理だ。
私は質問を残してそっとこの部屋から出た。
二人は追ってこない。
あの部屋から出るもどうしたらいいのかわからない私は大きな建物の端でうつむいていた。
これからどうするんだろう。
真っ暗な天井が余計に不安を仰ぐ。
「はぁ」
肩の力を抜いて手を下にぐっとおろすとスカートのポケットに何かが入っているのがわかった。
なんだろう?
「これは……」
中に入っていたのは懐中時計。
私を闇の状態から救うであろう画期的アイテム。
こんな古臭い見た目だが、実は電話のようなものなのである。
能力者がこの懐中時計を開くと仲間に連絡をすることができるのだ。
これは私の組織の仲間が作ってくれたものだ。
これで敵組織を倒せるかもしれない。
助かる希望が見つかりウキウキしている大空の真後ろに何者かの影が迫っていることはまだ知らない。
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