第十話 味方を探せ

 浮かれていたものの後ろに気配を感じた私は恐る恐る振り返える。

 そこにいたのは河野先生だった。

 私を捕まえて来いとでも命令されてきたのだろうか。

 微笑みながら私の横に立つ。


「絶対にこの組織をつぶしますから」


 何をしたいのか分からない河野先生に私は強めに一言いうと懐中時計のスイッチを押した。


 連絡してしまえばこちらのものだ。

 きっとみんなならどうにかしてくれるはず。


 “ウィーン”


 ちょっと心配になる起動音とともに誰かの声が聞こえてくる。

 私はその声の主を必死に呼んだ。


「ゆう兄さん! 優弥兄さん!」


 その呼びかけに答えるかのように声がはっきりと通じた。

 久しぶりに使ったからもう壊れたのかと思っていたけど通じてよかった。

 

 一安心、一安心。


「大空? 今どこ⁉」


 相手は相当心配している様子。

 たぶん学校上では早退したことになっているのだろう。お母さんは仕事で出張中だし。

 なのに家に帰ってこないからめちゃめちゃ心配しているのだろう。

 見なくてもその顔がありありと浮かぶ。


「すみません、優弥兄さん。ちょっといろいろ大変なことになってまして」

「何⁉ 今すぐ行ってあげるからな。待ってて。すぐに場所を調べて――」

「いや、優弥兄さん」


 なにから伝えていいかわかっらなくなっていると後ろの河野先生が驚いた様子で口を開いた。


「えっ、もしかして優弥? 俺だよ、オレオレ」

「ん? このふざけた口調はまさか」


 しばらく優弥兄さんの声が聞こえなくなる。

 えっ、まさかこの二人って知り合い?


「優弥、今何してんの?」

「あっ、いや学校にいますよ。そういう河野さんこそ何してるんですか。大空と一緒にいるみたいですし……」

「ちょっとあっちの任務でね」


 ちょっと理解が追い付きません。

 この二人何なの⁉


「あのぉ~、お二人って……」

「あ、河野さんはうちの組織の幹部の一人だ。大空が小さいときはよく遊んでたな」

「そうだよ、かわいかったなぁ。今もかわいいけどね。竜也とも仲が良かったんだよ」

「え……」


 よくわかってない私のために二人は説明してくれた。

 まず、優弥兄さんは私が小さい時から組織に入った。コードネームはライシャ。優しくて頼れる兄さんって感じで小学生の先生をしている。なのでいつの間にか優弥兄さんと呼んでいた。でもちょっと怒ると……。この先はご想像にお任せ。


 そして二人によると河野先生ウォッタは竜也叔父さんの昔からの友達で組織の幹部だとか。

 その印として集合写真を出してくれた。確かに竜也叔父さんやまだ小さい私が写っている。

 私が物心つく前に潜入捜査としてあちこちを飛び回っていたそう。「時々見守ってたよ」と言われてちょっと寒気がしなくもない。


 こういうことで河野先生はただいまこの敵組織に潜入中で「この件をさっさと片付けて大空と一緒に帰るぞー」とのこと。


 でも私と河野先生でこの組織をつぶせるのだろうか。


 そんな時に陽気な河野先生はここでダジャレを。

 ずいぶん勇気のある人だ。


「アースの明日を守る!」

「……?」

「ダメだった?」


 長い沈黙氷河期が訪れた。

 ダジャレの明日は河野先生の手によって潰されてしまうかもしれないけど。

 あきれた様子で優弥兄さんはまた後でと言って通信を切る。


 この戦いは終わる時が来るのだろうか。

 ダジャレは終わっても長い時を経た恨みを解くのは難しいのかもしれない。


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