第四話 見えない人との再会

 このまま連れていかれるのだろうか。

 恐怖で足が震えている。

 やはり能力を使おうか。


 悩むばかりで行動ができない。

 いわゆる優柔不断な性格ってやつだ。

 いかに自分が弱い人間なのかということが、今身にしみて感じられる。


 あぁ、急に感覚がおかしくなってきた。

 なんだか頭が痛くなるような。意識がなくなっていくような。

 迷う私に何かを伝えようとするかのように急に竜也叔父さんの声が聞こえてくる。

 いや、自分自身がしゃべっているような……。


 大空の髪の色が金色に輝きはじめる。

 ショートカットの短い髪が窓から入る光に照らされ、余計に神々しさを増していく。


「お前もだいぶ変わっちまったなぁ」

「大空、どうしたんだ?」


 ありえない現象を目にした船田は一歩後ろへ下がった。

 船田の目に映ったのは正真正銘あの人であった。


「今は大空じゃねぇけどな。よう、久しぶり。翔平、いやサンド」

「まさかお前…」


 翔平は船田の名前である。


 大空が俺の名前を知っているのは当たり前だが、なぜコードネームまで知っているのか。なにかおかしい。


 船田は悪い気配を感じ、さらに一歩後ろへと下がった。

 

 大空竜也は外の風景を見ながら話しはじめた。

 もう、先ほどまでの大空はここにはいない。


「“今は”体がないから大空に乗り移るしかないけどよ、やっぱり頂点を取られるわけにはいかねぇよな。俺が王だぜ?」

「ほんとに、竜也なのか?」


 船田の前にいるのは、見た目こそ違うものの、あの竜也そのものであった。


「だから言ってんじゃん。大空に手を出したら承知しねぇからな」

「なんでお前はいなくなったんだよ」

「その質問にお答えすることはできませんっ。まあ後でわかるかもしれねぇけどな」


 翔平はまだ頭が追い付いていなかった。

 さっきまで自分の前にいたのは大空だったはずなのに。なんであいつがいるのか。あいつはきっとまだ動けるような体ではない。いや、体はないのだろう。

 

 聞きたいことは山ほどあった。

 なぜ俺らの前から消えたんだ。

 なぜ大空にすべてを任せている。

 前みたいに、やりたい放題で騒ごうじゃないか。なぁ、お前がやらないなら俺らがやっちまうからな。


 ライバルと想像こんな形で再開するなんて誰が想像出来ただろう。


 一人考え込む翔平に竜也はささやいた。


「俺は別にお前らを見捨てたわけじゃねぇからな。大空を傷つけるんじゃねぇぞ。俺が見てるからな。じゃあな」

「竜也っ!」


 翔平の叫び声は部屋中を響かせた。

 憎んでいるような悲しいような嬉しいようないろんな感情が混ざり合った声だった。

 もう会えないような気がして、会わないような気がして、だがどうすることもできなかった。


 いつから気を失っていたのだろうか。感覚が徐々に戻っていく。

 でもどこかで竜也叔父さんの気配を感じていたような気がする。目の前の船田先生はなぜか唖然としていた。

 何があったのだろう。


「船田先生、どうしたんですか?」

「何でもない。何でも……」


 船田先生の顔は昔を思い出しているような、遠くを見つめているようだった。

 さっきまでのあの気力が感じられない。

 

 急に頭が痛くなる。さっきとは違う痛みだ。

 何か今まで聞いたことのないような音が脳内を駆け巡る。


 ああ、船田先生の能力は“音”だったんだ。気づくのが遅かった。

 

 大空はその場に倒れてしまった。


 翔平は自分の行いが正しいのかなんてわからないまま、ただ竜也のことだけを考えていた。

 

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