第三話 王とライバル

「まさか大空が王だったなんてな。考えてなかったよ」

「私もまさか先生が能力者だなんて思ってませんでしたよ」


 船田先生はたぶんこの組織をよく思ってない人だろう。“ライバル”という言葉が頭にずっと残っている。

 先ほどの安心感など、どこかへ吹き飛んでしまった。


「俺らは前からあの組織を恨んでいたよ。いや、正しくはクロックを」


 予想もしなかった言葉が出てきたことに、少し動揺してしまう。

 

 私自身は何もしてないはずなのになぁ。一体竜也叔父さんは何をしてこんなに恨まれているのだろうか。

 なにしたのかなぁ。

 昔は結構やんちゃだったらしいからなぁ……。


 クロック、この言葉を聞いただけで胸がぐっと苦しくなってしまう。


 そして、恐る恐る聞いてみる。


「竜也叔父さんを知っているんですか?」


 竜也叔父さんというのは私の組織の二代目。能力者組織の人間には皆コードネームがあり、竜也叔父さんはスカイクロックと名乗っていた。“スカイ”は組織の頂点のものに代々受け継がれる王の象徴のようなものになっている。


「ああ、昔からな。やっと王族に会えた。さあ、一緒に俺らの基地まで来てもらう」

「なんで行かないといけないんですか」


 今までの優しかった先生の面影はどこにもない。

 もし、先生について行ったりなんかしたら、もう命はないかもしれない。だが、ついていったら、消えたひいおじいちゃんや竜也叔父さんの手がかりがつかめるかもしれない。


 どうするべきか……。


 いきなりの展開に固まっていると、先生は少し顔を覗きながら冷たい笑みを浮かべて言う。


「大空の力を使って超能力界の頂点を君の組織から俺らの組織にするためだよ」

「私の力で、頂点に……」


 確認のためにもう一度心の中で叫ぼう。


 私の力を使って頂点に⁉

 

 もしも超能力で事件を起こされたりなんかしたらは取り返しのつかないことになってしまう。昔から先代や二代目には世の中何があるか分かったものではないと散々教え込まれてきたがまさか本当に起こるなんて思っていなかった。

 とにかく今はこの場から逃げることしかできないだろう。

 でもどうやって?

 

「さあ、来るんだ」

「無理です。この力を悪用されるわけにはいかない」


 船田先生は手を強く掴み離さない。


「離してくださいよっ! 得体のしれない組織になんか協力できない」

「離してほしいなら力を使えばいいじゃないか」

「今使ったら学校の全員に知られるじゃないですか」

「当たり前だ。だが、そこまでして俺らから逃げる勇気があるかと聞いてるんだよ」

「逃げる勇気……」


 確かに逃げるには勇気が必要だ。逃げることで犠牲を払うことになるかもしれない。

 それに逃げても学校の中に敵がいるのなら毎日会うことになる。そんなのストレスの原因にしかならないじゃん!

 やっぱり何とかして逃げ出さないと……。


「なんだ、考え事か? ずいぶんのんきだな」


 船田先生は再び固まっている私に向かって笑いながら言う。私と違ってずいぶん余裕があるみたいだ。


「相手の能力も知らずに動けないですからね」

「こっちも同じだ。俺の能力を知りたいなら俺の能力を味わえばいい」

「何をする気なんだ!」


 船田先生が超能力者だったことがまだ理解できてないのにいきなりライバルだって言われても……。 このまま敵の組織に連れていかれるわけにはいかない。

 

 竜也叔父さん、力を貸してよっ!

 

 この願いが直接本人に届かないことぐらいわかっている。でも今はただそう願っていることしかできなかった。

 

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