第6話「今日も、とっても良い日」
確かめたいものがあった。約束があった。共有したい体験があった。
だから私は願った。
例えこの身が冬にしか存在できないものであったとしても。何年間も力を溜め続ければ、いつか会いに行けると信じて。だからお婆ちゃんとお爺ちゃんには会えなくなった。
ごめんなさい。ごめんなさい。二人の死に目すら逃して。私の在り方はそこが原点だったはずなのに。それでも彼との約束を果たしたくて。それが、こんなことになるだなんて。
彼を助けることが出来たのか、もう視えない。人の身体はどうしてこんなに温かいのだろう。
自然物、そうなっても不思議じゃない現象ならいくらでも凍らせることが出来るのに。どうして人と私たちの在り方はこんなにも違うのだろう。
「――おい! くそっ、みちこ! 返事をしろ!」
「あ……名前、呼んでくれた。うれし、い」
ああ、良かった。彼の声が聴こえる。なら、どうにかなったのだろう。そうであって欲しい。
「みちこ、お前あの子だったんだよな!? 俺が湖の話をしたら見てみたいって。あの湖が凍りついたらすげーよなぁって話したら、そうしたらスケートやろうって。なんで忘れてたんだくそ」
「カイく、ん思い出して、くれた……の?」
「ああ。ああ、思い出した。お前、人間じゃなかったんだな。当時は、わかんなかったよ」
そうだった。私も、嫌われたくなくて隠してたっけ。じゃぁ、じゃぁ約束も思い出してくれただろうか。他愛のないものだったけれど。子供のした、無邪気な約束だけれど。それでも私の宝もの――。
「やく、そく」
「約束? なんだ、何を約束すればいいんだ!?」
「……ううん。だいじょう、ぶ。ちょっと、さむい、くら」
そうだ。私の身ではおおよそ掴めない幸せを経験できたのだから。それで良いじゃないか。それ以上を望むだなんて、贅沢だ。だから、ありがとうカイくん。
「あり……が……」
「なんだ? どうしたみちこ……聞こえねぇよ! 約束だろ? わかってる! わかってるから目を。くそ、目は何処だよ……!」
カイくんは、優しいのだ。
ありがとう。さようなら。
私は元から春には消えるものだから、大丈夫。
今日もとっても良い日になったよ。
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