第4話「お出かけ先は湖ですっ!」

「で、未だに何のために来たか言わない気か」

「ごめんなさい」

「まぁ、悪意はなさそうだから良いけどよ」


 カイくんと生活するようになって何日かが経っていた。世間は正月休みという奴で、色んなお店が休みだったけれど、出歩いている家族連れも多い公園だ。凧を飛ばしている。

 今の時代、色んな凧があるんだなぁとぼんやり私はそれを見ていた。


「ったく、お前みたいなのは初めてだ。俺はどういうわけか小さい頃から視えるたちだったし、お前らみたいな奴らが見えて良かった試しはなかったんだがな」


 その言葉はちょっとだけチクリとした。カイくんは、楽しくなかったのだろうか。私たちのようなものが相手で良いことがなかったというのなら、昔のあの付き合いもそうなのだろうか。


 確かに、今のカイくんに負担をかけている自覚はあった。私が訪問した時は必ず暖房を切っていたし、料理もわざと冷まして一緒のものを食べてくれた。

 流石にお泊りなんて出来ないから解散しちゃうけれど、それでも普通なら暖かくして過ごす時期のはずなのだ。


「私、迷惑かな……?」

「あ? 迷惑は迷惑だな間違いない」

「うぅ」


 やっぱり、相容れない存在なんだろうか。いや、それはわかっていた。わかりきっていた。だから、一目見て。でも約束を確認して。それで帰ろうと思っていた。最初は。


「あー、そんな顔するな馬鹿」

「だってー」

「ったく。いいや、今日は。お前、普段はあれだろ? 山とかに居るんだろ? どっかこっちで行ってみたいところとかないのか?」

「ふい?」


 どうしたのだろう。急な提案に顔をあげた私。カイくんは、なんだかばつの悪そうに、こちらを見ないようにしていた。

 いや、ちらちらと見てはいるけど目を合わせないようにしてる。こちらを気遣って、でも気恥ずかしいといった仕草がなんともいえない。


「じゃぁ、湖!!」

「なんだそのチョイスは」


~~~~


 私の願いで辿り着いたのは、彼の地元でちょっと足をのばした所にある湖だった。湖上から吹く風は気持ちよく、いや人間の彼にしたら寒いかもしれないが良い感じである。


「なんで、またこんなところに」

「来てみたかったの」


 ここについても、小さい頃に聞いていた。大きな湖。私が居たあたりに湖はなかったから、いつか一緒に見たいと思っていた。思い出また一つ、達成。


「はっ、こんな人気のないところでまさか俺を!?」

「違いますぅぅうううう!」

「だから泣きそうな顔をするのをやめろ」


 カイくんをどうこうなんて、そんな気は毛頭ない。というか、そんな存在じゃないってば。未だにカイくんは私を信じていないのだろうか。まったくまったく。


「ボート借りたい」

「まじかよ。この寒空で?」

「天気は良いじゃない。きっと気持ちいいよ!」


 渋る彼の背中を押して、私たちはボートを借りた。こんな日でも人が居るのかと心配だったが、居眠りをしているお爺ちゃんが一人。ご苦労様です。

 二人で乗って、カイくんが漕ぐボート。それが湖の真ん中まで進んだところで、私は一人立ち上がった。


「ふふふ。ついにここまで来てしまったねカイくん」

「な、なんだその口調。お前、まさか」

「何よそのまさかって」


 私は頬を膨らませ、腰に手をあてた。すぐ疑ってくる。カイくんはこれまで私たちのような存在にそんなに悩まされて来たのだろうか。それはそれで申し訳ない気持ちが出て来る。でも、そろそろ信じて欲しい。


 だから私は何も言わずに実行した。いつか、したいと言っていたこと。それを実現させるために。


「おいおい、嘘だろ?」

「ね。どう?」


 湖畔の真ん中で。ボートを中心に、そこには氷が出来ていた。私は靴の底にブレード状の氷を作り、そっとボートから湖面へと降り立った。


「ほら、カイくん」

「お前、……まさか」

「もう! 今更湖に引き込むとか氷漬けだとか、そんなことするわけないから!」

「いや、そういうわけじゃ。いや、まさかな」


 カイくんは戸惑いながら私の手を取って、恐る恐るといった感じにボートから足を踏み出した。私はその足が湖面につく前に、カイの靴底にもブレードを作ってあげる。


「これは、凄いな」

「でしょ? 私は出来る女なので!」

「ああ、素直に驚いた」

「じゃぁ行きましょう。端っこはあんまり行かないでくださいね。滑れますか?」

「多少は。やばかったらサポートよろしく」

「はい!」


 私たちは湖上で踊るように滑っていく。人気のない湖面の上、他が凍っていないのに、そこだけ凍ったボートの傍で。

 きっと誰かに見つかったら騒ぎになっちゃうだろうから、こっそりと。今日も、とても良い日だ!

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