第2話「お世話しますっ!」

「俺は野沢 海だ。で、お前は?」

「ぐすん……、みちこ」


 知っている。名前くらいちゃんと覚えている。ところで私は自分の名前があまり好きではない。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが考えてくれた名前だけど、あんまり今風じゃないからちょっと恥ずかしい。


 でも名前を言えば思い出してくれるかなという淡い下心があった。結果は失敗だったみたいだけれど。ピンとは来ていない様子。人間って忘れやすいのかな? それとも、彼にとってはその程度のことだった?


「で、お前何しに来たんだ?」


 その問いは残酷だ。言えば、言ってしまえばそれだけなのだ。繋がりは細くて遠い。私はまだ手放したくなかった。せめて、思い出したうえであって欲しい。切り捨てられるのだとしても。


「黙ってちゃわからねぇよ。なんなんだ一体。くそ、こんなところでさみぃな」


 ご近所迷惑ということで移された場所は公園だ。屋根があって机とベンチがある休憩所のような場所で、私たちは向かい合っている。

 一応、私に配慮してくれたらしく温かいファミレスとかは避けてくれたらしい。やっぱりカイくんは優しいのだ。


「お前は寒くないんだろうな。ったく、傍にいるだけで一段と冷えるぜ。おいやめろ、また泣くんじゃない」


 ……カイくんは優しいのだ。


「で、用がないなら帰れよ」

「やだ」

「雪女で俺を殺しに来たんじゃないなら何なんだ」

「身の回りの」

「あ?」

「身の回りのお世話をさせて、ください」

「意味がわからねぇ」


 カイくんは天を仰いでいた。呆れたような諦めたような。でも怒気のようなものは感じない。


「で、何が出来るんだ?」

「色々出来ます! ちゃんと修行してきたんだから!」


 意気込む私に対して、彼は何やら疑いの眼差しだったけれど。でも、私は出来る女だから大丈夫。ともあれこうして、私とカイくんの生活が始まった。

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