まっしろ恋は一直線っ!?
草詩
第1話「雪女じゃありませんっ!」
子供の頃、よく一緒に遊んだ相手が居た。
それは珍しい事ではなくて、誰もが持つ記憶だと思う。
冬、お正月にだけやってくる男の子。
私も、冬にしかお婆ちゃんたちの家には行かないので、たまたまの出会い。
カッコよかった?
カワイかった?
子供心に覚えているのは心配してくれる彼のこと。
「寒くないか?」
そういう彼はいつも優しい眼差しをしていたから。
そんなこと言われたのは初めてで。
私はいつも「大丈夫」と冷静に答えたつもりだった。
やがてお婆ちゃんたちの家にも行かなくなって。会わなくなって何年経つだろう。
彼は、あの時の約束を覚えていてくれるだろうか。
~~~~
「なんだお前」
久々に会った彼は訝しんだ様子でそう言った。そりゃ、ね。10年以上は経っているんだから、覚えられていなくても仕方がない。ショックだけど。
いや、大人の魅力に目覚めた私を見て気づかないのも当然かもしれない。それだけ成長したんだから面食らうのもわかる。気持ちはわかる。ショックだけど。
「久しぶ――」
「おい待て近づくな」
思い出してもらおうと思った。近づいていつものように。かつてしていたようにすればきっと気付くと思ったから。でも止められた。
彼のアパート、二階の部屋の前。夜の廊下で私たち二人、距離を取って見つめ合っている。あんまりロマンチックではない。
彼は及び腰で一歩下がり、片手を上げて待ての姿勢。私は犬じゃないけど待ってしまった。
「お前、人間じゃないな? この真冬にその薄着」
「え、その……」
「この冷気。男を誘惑して凍死させる奴だ。お前雪女だろ!」
「違いますぅううううう!!!! うわぁあああん!!」
私は叫んだ。彼はぎょっとしている。恐怖、ではないと思う。困惑だ。だって。思い出してくれないのは、そうかもしれないって覚悟があった。きっと不審がられるとも思っていた。
でも、まさか。男を誘惑して殺すような悪辣な存在だと思われるなんて。何年も待ったのに。
私は泣いた。めっちゃ叫んだ。鼻水も出ていた。
近所の人が出て来て「他所でやれ!」というくらいに。
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