第8話
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良楽は眩しい日差しで起きた。わりとパッと目が覚めた。時計を見ると七時半だった。起き上がり、普段着に着替え、顔を洗い、髪の毛を整えた。一人暮らしのアパートには赤とんぼが飛んでいて、鈴虫やコオロギが鳴っていた。そろそろ朝飯にするかと言って、インスタントの味噌汁にお湯を注ぎ、冷凍庫の中にある一人分の米をレンジでチンした。野菜室にある、切り分けて一回分にしたミックス野菜を取り出して、フライパンで炒めた。皿に盛り、納豆を冷蔵庫から取り出し、いただきますと言って食べ始めた。部屋の中には掛け時計の秒針の音と良楽の食べる音だけが響いていた。食べる終わるとすぐに片付け始め、皿と箸を洗って食器棚にしまった。床にひっくり返り、天井を眺めた。なんて事の無い無地の天井だ。しかしそれが良楽には幸せだった。今日は瑠花が糸満に帰る日だ。瑠花には世話になった。これからも世話になるかもしれないなんて思っていると、真也から電話が入った。
「良楽さん、お早う。瑠花さんが八時四十七分の上松駅の電車に乗るって言うから、八時には家を出ようと思う。それに間に合わせて来てくれ」
良楽は了解して、すぐに用意して車に乗り込んだ。良楽のアパートから真也の家まで十分で行ける。それでも良楽は気が流行った。良楽が真也の家に着いたときには、瑠花が表で真也と加奈子と三人で立ち話をしていた。良楽は車を真也の家に付け、車から降りた。三人の方に向かうと、瑠花が笑顔で兄さんお早うと言った。瑠花が続けて良楽に言った。
「もう出発まで五分しか無いのよ。兄さんね、くれぐれも言っておくけど問題起こしちゃ駄目だよ!糸満の時みたいに問題起こしたら今度こそ行くところがないんだからね。ここのみんなと一緒にやって行くんだよ!ほんと言うと心配なんだから」
瑠花は真也と加奈子にも言った。
「もうほんとこんな兄なのでよろしくお願いします。また迷惑かけるかもしれませんが、本当にお願いします」
瑠花は真也と加奈子に手を合わせ、深々と頭を下げた。それを見て真也は瑠花に話しかけた。
「瑠花さん保証なんて誰だってあるもんじゃないでしょ?私たちも良楽さんと一緒にやって行こうと思ってます。そのお気持ちは分かりますが、私たちは私たちでやって行きますので、私たちに任せてください」
加奈子が続いて瑠花に話した。
「瑠花さんが良楽さんの心配をされるのは分かりますが、瑠花さんにも守って行かなければいけない家族がいらっしゃいます。私たちに任せてください。思い起こしたときに良楽さんに連絡してやって下さい」
瑠花は有り難うございますと言って、重ね重ね頭を下げた。当人の良楽は済まなそうにして黙っていた。
真也が腕時計を見ると、ちょうど八時だった。真也はそれじゃあそろそろ行きますかと言ったときに、良楽が目をギョッとさせて瑠花に言った。
「瑠花。本当に有り難う」
瑠花は良楽の体が硬直しているのを見て良楽に話しかけた。
「最後のお別れじゃないんだから。しょがないんだから兄さんは。元気でね」
そう言って真也と瑠花は車に乗り込み、短くクラクションを鳴らし、車は上松駅へと出て行った。
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