第7話

今日は良楽の経営する沖縄料理店「美ら海」が開店する日だ。二十人入る宴会場は満席になる予定で五時開店になる。ランチは十一時から二時まで。閉店は二十三時だ。接客や会計のアルバイトや調理助手も雇い、準備は万全である。良楽は朝から準備に追われていた。今日は、町内会の人たち、真也と加奈子。瑠花も来る予定だ。

食材は沖縄の業者に頼み、空輸で送ってもらう。沖縄料理だけではなく、ランチには醤油や味噌ラーメンも作る。地元料理も教えてもらい、自分なりに研究した。地元密着を考えた沖縄料理店である。大量の海老の皮をむき、ゴーヤも下ごしらえをした。助手と二人で準備をし、お昼は二人で適当にまかないを作り、ひたすら剥く、切る、焼く、蒸すなどの作業をしていた。今日はとにかく宴会の料理二十人分を作り続けた。開店前の三十分には大まかなところまで出来ていて、とりあえず助手と休憩を取ることにした。へとへとに疲れた二人は厨房の椅子に座って、麦茶で乾杯をした。良楽が笑顔で助手に話しかけた。

「このままいくとなんとか間に合いそうだな。俺たちの勝利まであと少しだぞ」

良楽は満更でもない表情で続けた。

「町内会の人たちも沖縄料理は初めてだって言ってたからな。皆さんに満足してもらおう」

そう言って二人で話したあと、ラストスパートにかかった。良楽の指示に助手が的確に動く。最後の盛り付けは良楽が心血注いでやった。こうして全ての料理が出揃った。その頃、バイトの女性が集まってきた。良楽はバイトの女性に話しかけた。

「今日から開店だ。皆さん頼みますよ!」

従業員の気合が入ったところで、ちらほらお客さんの姿が見えてきた。接客の従業員が宴会場はこちらですと案内する。宴会のスタートは六時からであと三十分くらいあるが、すでに十人以上集まってきていた。接客の従業員が次々と料理を運んでいく。六時五分前だろうか真也と加奈子と瑠花が見えた!良楽が出迎え、瑠花が話しかけた。

「兄さん久しぶりだね、念願叶ったね!」

良楽は嬉しさのあまり泣きそうになった。そして三人に話しかけた。

「ほんと皆さんのおかげで、自分一人では何も出来なかった。みんなの協力があってここまでこれた。本当に有り難う」

真也も良楽に話しかけた。

「良楽さんがね、みんなのことを信じて、積極的に努力して行った結果だと思うよ」

加奈子も良楽に話しかけた。

「良楽さん良かったわね!今日は本当に楽しみにしているわ。これから毎日でもこようかしら」

良楽の目には涙が浮かんでいた。ただただ、有り難う有り難うと言うばかりだった。そんなことをしているうちに六時になった。

料理と酒は出揃い、二十人ちょうど集まった。良楽と助手、接客の従業員が前に揃い、良楽が挨拶のスピーチを始めた。

「本日はどうも沖縄料理店、美ら海へお越しいただき有り難うございます。今日は皆さんに沖縄料理のフルコースとオリオンビール。泡盛を用意させてもらいました。今日は私の三線と妹の瑠花による沖縄民謡も披露させてもらいます。皆さんの多大なる協力をいただき開店に至ることができました。今後とも沖縄料理店美ら海をどうぞよろしくお願い申し上げます」

一同から拍手が起きた。良楽が乾杯の音頭をとることになった。

「沖縄料理店、美ら海と皆さまのご多幸を願いまして乾杯とさせていただきます。乾杯!」

乾杯という掛け声のあとに早速、良楽の作った沖縄料理に舌鼓を打つことになった。良楽は固唾を飲んで見守った。しばらくして次々と良楽に喜びの声が上がった。

「良楽さんこんなの食ったことないよ。へーこれが沖縄料理なんだね。ホント美味いよ。この店続くと思うよ」

「良楽さんやるねー!ここら辺で一番の店になると思うよ。本当に美味い!」

良楽はその都度頭を下げ、有り難うございます、有り難うございますと頭を下げた。

良楽は瑠花を呼び、沖縄民謡の準備をした。二人は和服に着替え、良楽は三線を取り出した。二人は前に出て行き、瑠花が司会をした。瑠花の凛とした声が宴会場に響き渡った。

「みなさま、きょうは沖縄料理店美ら海にようこそ。料理の方は堪能していただけたでしょうか?これから二人で琉球王国の時代から続きます沖縄民謡を演奏します。私も小さな頃から地元沖縄で歌い手としての稽古を積んで参りました。兄の良楽とも何度も一緒に演奏してきました。琉球音階という独特の音階で曲は作られています。今日は是非、異国情緒あふれる沖縄民謡を楽しんでもらえたらと思います。一曲目は『てぃんさぐぬ花』という沖縄民謡でも最もポピュラーな曲から演奏します。是非聞いてください」

良楽の三線も調弦が終わった。少し間をおいて、良楽の三線からイントロが始まった。瑠花の沖縄民謡独特の発声法による歌が続いた。

「てぃんさぐぬはなや(てぃんさぐぬの花は)ちみさちにすみてぃ(爪先に染めるもので)おやぬようしごとや(親の言うことは)ちむにすみり(肝に染めるものだよ)たからだまやてぃん(たからをもっているからといって)みがかにばさびす(みがかないとさびる)あさゆちむみがち(朝夕と肝を磨いて)うちよわたら(浮世を渡って行こうよ)」

演奏が終わると拍手と口笛が鳴った。こうして宴会は六時から始まり、十時まで続いた。帰り際に良楽を始め、従業員が出口に並び、一人一人言葉を交わして行った。みんな酔ったようで顔を赤くしながら良楽に話しかけた。

「良楽さん最高だったよ!また来る!」

「沖縄料理も民謡も良かった!ありがとね!」

良楽は一人一人丁寧に応対していた。来てくれた人たちが全て帰った時に、真也と加奈子、瑠花が残り、今日は最高だったねと話し合った。それとともにどっと疲れが出てきた。これから片付けをしないといけないと思うと、しゃがみたくなる気分だった。結局、従業員と真也と加奈子、瑠花が一緒に片付けることになった。意外とみんなでやると早く片付いたがそれでも十一時を回っていた。ジュースやウーロン茶でお疲れ会をやることになった。特に良楽は疲れていた。加奈子が良楽に話しかけた。

「今日はこれ以上ないってくらいの開店記念日になったね。本当にお疲れ様。良楽さんのお陰で上松町が明るくなるような気がする。今日は本当に有り難う」

良楽はうつむいたまま、しみじみと笑顔を浮かべていた。

真也も良楽に話しかけた。

「これからが大変かもしれないけど、俺も力になれることがあれば協力するよ。今日は本当にいい開店記念になったね、有り難う」

良楽と真也は握手した。

最後に瑠花が良楽に話しかけた。

「兄さんね。もちろん自分の力もあるだろうけど、お母さんの願いや周りの協力があってできることだと思うの。地元の人たちと一緒にやって行って欲しいな。言うまでもないけど感謝を忘れずに」

良楽はうつむいたまま、そうだなと呟いた。良楽はさてと言って立ち上がり、みんなに向かって言った。

「今日は皆さまお疲れさまでした。おかげで最高の開店記念が出来ました。これからもよろしくお願いします。これで解散にします」

従業員はお疲れ様と言ってそれぞれの家路に着いた。瑠花は明日の便で帰りますと言った。真也は上松駅まで送りますと瑠花に伝えた。四人は疲れたとか良かったとか言いながら家路に着いた。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る