第2話
それはアンドリュウ王の軍勢が宿敵ジョドナイ族の軍勢との戦いで勝利を収めた記念すべき日から五年目のことであった。
ある国境いの村落にジュウドフ.バロンデインと言う名の四十代後半の男が住んでいた。彼は剣の達人でこれまで多くの戦いに参戦して来た歴戦の勇者であった。彼は精悍な顔をしていて、長身で逞しい肉体の持ち主であったが、今は戦いで負傷して戦場から遠のいていた。その日の夜、ジュウドフは自宅のソファに座ってワインを飲んでいるところであった。
(あの戦いからもう五年も経ってしまったのだなあ。俺は負傷しているので参戦はできなかったが、これからは平和な世の中になればいいのだがなあ。)と彼はつぶやいた。その時、彼の背後から近づいて来る1人の女性がいた。
(あなたまだ戦いは本当に終わった訳ではないわ。世の中は一見平和そうに見えるけど人の心の中には密かに魔が入り込んでいるのよ。)その女性はジュウドフの妻のクリスティーナであった。
(おお、クリスティーナ。愛しているよ!)'
ジュウドフの妻のクリスティーナは三十代後半の美しい女性であった。
(そうだなあ。確かにジョドナイ族の脅威は去ったかのように見えるが、我々の敵はまだ他にもたくさんいるし油断は禁物だ。)
クリスティーナは小さくうなづいた。
(そうだわ。まだ気を敷きしめて行かないと将来何があるかわからないものね。)
(俺も今は負傷して戦場を離れているがこの傷ももうすぐ治るだろう。)
そう言うとジュウドフは部屋の奥の方の鉄製の細長い箱を見つめた。その箱の中に一振りの剣が入っていることを彼は知っている。それから何気なく自分の負傷している右足の太ももに触れた。
(その聖剣ゴッド.ソードをまた使う日が来るかも知れないな、しかし俺も年をとっているし、誰かこの剣を使えるほどの器量のある者がいればいいのだが。)
(何を言っているのよ。あなたはまだ若いわよ。弱音を吐いてはいけないわ。きっと近い内にこの剣を使う日が来るわよ。それにあなたを狙う者たちがたくさんいることに気づいていないの?)
(クリスティーナ、お前の言う通りだ。いつまでもこんなところでくすぶっている訳にはいかない。また戦場が恋しくなってきたぜ!)ジュウドフは戦いへの血が騒ぐのを感じている。
(それにしてもアンドリュウ王は元気でいるのだろうか?噂では以前のような活力がなくなっていると聞いているが’?何となく胸騒ぎがする?)
ジュウドフはおもむろに椅子から立ち上がった。その両目はランランと輝いているように見える。
(お父さん、お母さん!僕はもう眠くてしょうがないんだ。もう夜も遅くなったし、そろそろ寝た方がいいんじゃないの?)15歳くらいの男の子が部屋の中に入って来るなり言った。この男の子はジュウドフとクリスティーナの一人息子で名前はロビンのいった。
(おお、もうこんな時間だつたか?そろそろ俺たちも眠ることにしよう!)
(ロビンいい子ね。さあ、私たちにも休息が必要だわ。外はもうすっかり真っ暗になってしまったわね。寝室に急ぎましょう!)
そしてジュウドフの家族3人は今までいた部屋から2階の寝室へとむかった。
誰もいなくたった部屋の中には一振りの剣(ゴッド.ソード)が不気味に鈍く輝いているだけだった。その剣はいつか自分の出番が来るのを待っているかのように思っているようだ。
その夜、ジュウドフの耳に外の暗がりから微かに数人の男たちの話す声が聞こえて来た。彼には長年にわたる命をかけた戦いの経験から優れた聴覚を持っていたのだ。
(ジュウドフの奴!今度こそ長年の恨みを晴らしてやるぜ!)
(そうだ!たぶん今頃は負傷した傷も癒えていないに違いない。)
(それに五年も戦いの場から遠ざかっているし、戦の感も鈍っているに違いない。)
その時、別の男の声が聞こえて来た。
(お前ら焦るんじゃない!あいつが持っているゴッド,ソードの恐ろしさを忘れたのか!あいつはそんなにむざむざとやられる男ではない!まあもう少し様子が見てみようぜ。)そうして男たちの声は次第に闇の中へと消えていった。
その翌朝のことだった。早朝に目を覚ましたジュウドフは寝室の窓から外の林の方を見つめてつぶやいた。彼の目は林の中に何人かの人間によって踏み荒らされた跡があるのを見逃さなかった。
(ふん、やはり奴らは俺のことを見張っていたようだな。俺には長年の戦の経験から敵が近くにいたことが分かるのだ。それにちゃんと奴らの話している声だって聞こえていたんだぜ。俺に聖剣ゴッド,ソードがある限り奴らなんかには負けないぜ。)それからジュウドフはおもむろに階下に朝食を摂るために降りていった。階下ではクリスティーナとロビンがジュウドフの来るのを待っていた。
(あら、あなた。何かあったの?なんだか少し興奮しているみたいだけど?)
(いや、たいしたことじゃない。いつものことさ。)そう言うとジュウドフは静かに食卓の椅子に座った。
しかしロビンにはジュウドフの考えていることが分かっているだった。
(お父さん!気を付けた方がいいよ。最近は危険な奴らがこの家の周りをうろちょろしているみたいだよ。)
(ロビン!お前の言いたいことは良く分かっているさ、しかし心配することはない。俺たち家族は神々によって守られているのだ。お前ももっと強い男にならなくてはだめだぞ!)
それでもロビンは何となく不吉なものを感じていたのだった。
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