聖剣の守護者
@nobuokitajima19521117
第1話
(1)
21世紀も終わろうとしているある年、突如として世界を二分するような大規模な戦争が勃発した。きっかけはある国が敵対する国に核兵器による攻撃を仕掛けた事に端を発して次第に戦争の規模が全世界に拡大していったのだ。東洋のある島国も当然のようにその戦争の渦の中に巻き込まれて行った。その島国のある都市に住むユリナという名の17歳の少女がいた。ユリナの家族も大規模な空中からの爆撃を受けて、家を焼かれ街の中は火の海と化していた。
(このままここにいては危険だ!とにかく一刻も早く避難所に行かなければ!)父親のカズヨシが叫んだ。ユリナの家族4人は避難する人々や車を避けながら、避難所目指して街の中を逃げ惑った。街の中は燃え上がる火の海と人々の悲鳴や怒号にあふれ空も真っ暗でわずかな街の灯りだけが頼りだった。空気は汚染されて異様な悪臭が辺りに漂っている。
(誰がこんな野蛮な戦争なんか引き起こしたのだろう?その人はきっと頭が狂っているに違いないわ!)とユリナは思った。ユリナはまだ幼い弟のショウタの手を引いて、ひたすらに街の中を逃げていた。避難所まではまださらに距離がある。避難所は堅固な地下のシェルターである程度の攻撃には耐えられる構造になっている。とりあえずそこにたどり着けば当分の間は安全だろう。
(あの狭い路地を抜けた先に避難所がある。みんな決して離れるなよ!)カズヨシが家族のみんなに言った。
(ユリナ!ショウタの手を絶対に離してはならないわ!)母親のサユリが言った。街の至る所に死体が散乱している。まさにここは地獄そのものだった。
(あつ!空を見ろ!敵の爆撃機がたくさん飛んでくるぞ!)群衆の中の誰かが叫んだ。
爆撃機から大量の爆弾が落ちて来て、多くの人たちがたちまち黒焦げの死体となって死んでいった。そして多くの建物が破壊されていった。
(百数十年前にもこんな戦争があったって歴史の教科書で読んだなあ。)ショウタふとそんな事を思い出していた。彼は恐怖のあまり震えていた。
ユリナの家族4人はほどなく避難所に向かう狭い路地の近くまでたどり着いた。しかし、そこにはすでに多くの避難者たちがひしめきあっていて、なかなか中に入る事が困難に思われた。しかしその時、人々の間に少しだけ隙間が出来た。
(今がチャンスだ!みんな俺の後に続くのだ!)カズヨシの言葉を受けてユリナたちはその隙間めがけて一気に突き進んででいった。
ユリナたちの家族が路地に入るや否や、急に大勢の群衆がなだれ込むように路地の中に入って来た。あっという間にユリナは家族たちと引き離されてしまった。
(ユリナ!どこにいるんだ!)
(お母さんたちはここにいるわよ!)
(お姉ちゃん!どこに消えちゃったの?)家族たちの声がユリナの耳に聞こえて来たが群衆の上げる悲鳴や怒号に掻き消されてしまった。
(みんなどこに行ってしまったの?わたしはここにいるわよ!)ユリナは精一杯の大声を張り上げて叫んだ。
しかし、ユリナは家族たちの姿を人混みの中から見つけ出す事が出来なかった。後から次々に逃げ惑う群衆がなだれ込んで来たため、ますます家族たちと離されてしまった。
その門を曲がった路地は真っ暗でたくさんの人たちの体臭や悲鳴や怒号で埋め尽くされている。ユリナはかすかな光を頼りに一歩踏み出そうとしたが、
後ろから汗まみれの大男が猛烈な勢いでぶつかって来た。
(邪魔だ!この女、そこを退け!)
ユリナはその衝撃をもろに受けて弾き飛ばされてしまった。しかし、不思議なことに、落ちたところは人混みではなく、道路にぱっかりと空いた真っ暗な大きな穴だった。
(わたしはこのまま死んでしまうのだわ!)ユリナは生まれて初めて死を意識した。そして、彼女の意識は次第に失われてゆき、真っ暗な穴の中を矢のような勢いで落ちて行った。
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