やまびこモールス

 友達が海で殉職した。彼と最後まで通信していたのは私で、彼の死亡が確認された後、周りは随分気を遣ってくれた。家族でもないのに休暇を勧められた私は、その休暇を利用して山へ行った。海には行きたくなかった。船など見たらまた気が滅入ってしまう。

 山に向かって思い切り叫ぶ。馬鹿野郎と。一体誰が馬鹿なのか、それは決めていない。なんで死んでしまったのかと言うには、彼には制限が多かったし、なぜ助けられなかったと言うには、救助にも制約が多く、ただ彼の恐怖を受け止めていた私は、あまりにも遠かった。

 やまびこが聞こえる。

 短く、長く、反響が返る。

 トントントンツーツーツートントントン。

 そう聞こえた。それに思い当たった時、私の全身から汗が噴き出す。

 トントントン ツーツーツー トントントン。

 SOSだ。

 私と彼の最期の通信は音声ではない。モールス信号だった。彼が発し続けるSOSに私が気づいて救難依頼を出した。すぐに向かうから待ってろと、モールス信号を乱打して彼に送った。彼はそのあとずっと、特定の信号しか送らなかった。

 ツーツーツーツー ツートンツー トンツー。

 コワイ。


 私はそれにずっと頑張れとしか返せなかった。


 もはややまびことは呼べない反響。私の声が、鳥の声が、風に枝の鳴る音が、ずっとモールス信号を打ち続ける。


 トンツートントントン ツートントンツー ツートンツーツーツー ツートントンツートン ツーツーツーツー トンツー。


 オマエモコイ。


 私は逃げ出した。

(信号、友人、船)

(モールス信号のアイディアはフォロワーさんより)

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