死せる友
「俺の友達が貧血でさあ」
親戚が集まる新年会に出た時、叔父の正二郎が黒豆をつまみながらそんなことを言い出した。多分、黒豆作りに鉄釘を入れる、と言うことから鉄分、貧血という連想だったのだろう。叔父はこの年代の男性にしては料理をする方なので少し詳しいのだ。その黒豆は買ったものなのだけど。
「医者行けって言っても、無駄だからって行かねえし、いつも青い顔してふらふらしてんのねそいつ」
すでに親戚はみんな盛り上がっていたので叔父の話を聞いているのは私だけだった。私は田作りを食べながら、視線で続きを促した。
「あんまり酷い顔してるから、俺腹が立ってなじっちゃったのね。具合悪いのに放置するとは何事だ、人の心配無下にして、ってね。まあ俺も勝手だったけど。そしたらさ、そいつ言うんだよ。自分は死んでいるんだって」
私は顔をしかめた。
「まあ結論から言うと、そう言う思い込みの病気だった。コタール病って言うらしいんだけど。たしかに去年は訃報やら災害やら多かったから、その中に自分が入ってるって思い込むのはわかるけどな」
叔父はしみじみと首を横に振る。
「で、そいつは結局心労が祟って死んだ。せっかく心の病がわかって、治療してまた元気にやろうなって時にな。人間わからねえよほんと」
叔父は通夜と告別式、両方に出たそうだ。
「告別式の日にびっくりするようなことがあった。通夜が終わって帰るだろ? 冬だったから誰も腐敗は気にしない。葬儀屋がたまに見に行ってたみたいだけど、特に変なことはなかったらしい。だが、告別式で最後のお別れって段になって棺を開けたら……」
その人の髪の毛は真っ白になっていたらしい。
「あとは大騒ぎだよ。早すぎた埋葬ってあるだろ? 医者が呼ばれて、確かに死亡していたってもう喧々諤々。最終的に三人の医者が死亡確認して荼毘に付した。周りが生きてると思えば本人は死んでるつもりで、周りが死んだと思ったら本人生きてるつもりなんだからほんとなぁ」
おかしそうに言う叔父だが、目には寂寥感が浮かんでいる。私は手洗いのために中座した。
「あのう」
縁側を歩いていると、門の向こうから呼び止められた。青白い顔をした、総白髪の男の人が立っている。白髪だが、本当はもう少し若いだろう。
「正二郎さんにお会いしたいんですが、上がっても良いですか?」
(友達、親戚、血)
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