セルフお供え
隣家が取り壊された。そこに住んでいた老人が亡くなったのだ。発見したのは民生委員で、幸いな事に死後すぐだったため、腐敗は免れた。
葬儀が執り行われた。私も隣人と言うことで参列したが、喪主の姿は見当たらなかった。天涯孤独の身であったらしい。
それから家は取り壊された。工事現場には線香が供えられた。信心深い人が業者の中にいたのだろう。そう思っていたのだが、ある日、そこを通りかかった時、業者の一人に呼び止められた。
「この線香はあなたが?」
「いいえ」
どうやら業者でもなかったらしい。とは言え、変な悪意も感じなかったので皆、善意ではあるが迷惑な行動として受け止めていた。線香は撤去され、火事の恐れがあるのでご遠慮くださいと書かれた看板が置かれた。
また別の晩、私が帰宅すると、火のついた線香が供えられていた。私は少し迷ったが、それを折り取ろうと手を伸ばす。
不意に背後に気配を感じた。私が振り返る前に、それは囁いた。
「やめてくれ、誰も供えてくれないんだ」
(隣人、工事現場、線香)
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