鬼にバラされる

 旅行先で聞いた話だ。

 なんでも、その土地には風変わりな鬼の伝説があって、次のような話らしい。

 山奥に鬼が住んでいる。その鬼は迷い込んだ人間を捕らえて食べてしまうらしい。そこまでならよくある鬼の言い伝えだが、この話の風変わりなところはここから先だ。どうも、鬼の住処、つまり迷い込んだ人間を連れて行った所の話が少し変わっている。鬼の住処には、鉈、鋸、斧などがあり、捕まえた人間を殺すとその場で解体してしまうと言うのだ。

 食べられない所は捨てて、食べられる所は煮るなり焼くなりして食べるとのことで、今でも山で行方不明が出ると、「鬼にバラされた」と言うそうだ。


 その話を聞いて、私が思い出したのは、ここへの道中で見た一人の男だ。赤ら顔で体格がよく、なんだか統一性のないファッションをした男。ホームセンターが併設されているスーパーに、飲み物を買いに入って見かけた。

 チェーンソーは向いてなかった。柔らかいものを切るには不向きだと店員と談笑しているのを聞いたので覚えている。私より先に店を出た彼の車は、ナンバーが遠方のもので、地元民に見えるのにそれが妙にちぐはぐだったのでますます印象に残っている。

 帽子を脱いでから、私がいたことに気付いて慌ててかぶり直したその額に、角のようなコブのようなものがあったことも記憶にあった。

 車も含めて、迷った人間から奪い取っていたのか。

 私はその帰り道に、スーパーの道は選ばなかった。

 今でも、あの山では鬼にバラされた人が出るらしい。

(鬼、解体、旅行)

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