黒いゴミ袋

 映画を観に行った。ホラー映画を鑑賞していたのだが、どちらかと言うとスプラッタの類で、サイコキラーが、自分で作った迷路に若者を誘い込んで殺害し、身体の一部をその仲間に送りつける、と言う話だ。

 よくある話ではあったが、グロテスクさ、気持ち悪さに重きを置いたらしいそれは、しばらく肉はウェルダンで頂きたいと思う程度には肉の生々しさに迫力がある。

 映画が終わってから、昼食を取ろうと映画館の周辺を歩いた。正直、肉はあまり食べたい気分ではない。

 ぐるりと半周して、映画館の裏手に出た。そこで私はおや、と気づく。黒いゴミ袋が無造作に積まれているからだ。東京特別区なら、どこも指定のゴミ袋があるはずだが。

 私がさらにおかしいと思ったのは、中身の形状だ。柔らかい袋を突き破りそうになっている、数本の細くて先の丸いものの形がわかる。人の手に見えた。

 いやいや、先ほどの映画に影響されたのだろう。私は首を横に振る。そんな、まさか。

 怖くて仕方なかった。私は恐る恐る手を伸ばしてそのゴミ袋を引く。

 ゴミ袋は口が閉じられていなかった。中から出てきた生首もまた、口を閉じていなかった。

 それを見た私も。

(映画館、ゴミ袋、迷路)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る