怖いお話
目箒
忘れない
廃車両が町外れにある。言うまでもなく心霊スポットだったし、金のないカップルが入って行くし、生きてく意味を見失った人も入って行った。なので、今年うちのサークルの肝試しでそこが選ばれたのは当然と言えば当然だったのだ。
俺たちの知らない路線の名前は親も知らなくて、町の名前にちなんだあだ名で呼ばれている。それくらい前の路線らしい。役所に行けばわかるだろうけど、調べる意味もないから誰も調べない。
車両のどこかにお札を置いたからそれを取ってこいという趣旨だった。定番の肝試し。幹事が札を置きに行ったが、待てど暮らせど彼は戻って来ない。思わせぶりだなぁ、なんて呆れながら待っていたけど、三十分が過ぎたあたりでざわめきが大きくなる。幹事の友人が電話を掛けたが出ない。男子が数人、組んで探しに行った。その中に俺もいた。
廃車両までは五分かそれくらいで着いた。懐中電灯が落ちたらしく、不自然に車両の一角が光っている。
「おい、大丈夫か」
幹事が座り込んで呆然としている。彼は俺たちを見るや、ひっ、と息を飲んだ。
「入るなよ! また来るじゃないか!」
彼は裏返って震えた声で叫んだ。何が来るって言うんだ?
その時、一斉に小鳥が羽ばたくような音がして、窓の外が明るくなった。
「ひっ!」
違う、明るくなったのではない。明るい色で覆われただけだ。
一体どこにいたのか、数百匹の蛾が、窓にびっしりと張り付いている。幹事を立たせて、俺たちは急いで車両を飛び出した。
後で聞いた話によると、あの路線は養蚕業を立ち退かせて敷いたものらしい。だが、養蚕家が去ってから、蛾による車両トラブルが多くあったと言う。廃線になった理由がそれなのかは知らない。
今でもまだ、蛾たちはあの路線を許していないのかもしれなかった。
(蛾、電車、肝試し)
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