3. ライバル



「話がある」


そう言われて、黒いモルモットは顔を上げた。


夜の帳が降りようとしていた公園の飼育小屋。

彼は壁際の、うず高く積まれた

柔らかいおが屑の上で

眠りにつこうとしていた所だった。


意外なことに、そこにいたのは白いモルモットだった。


「おいおい、白毛さんが何の用だ?」


黒いモルモットは立ち上がると、壁に肘をつき

わざと馬鹿にした態度を取った。


白いモルモットはまじめな顔を崩さなかった。


「俺のやろうとしている事を

お前に話しておきたくて」


「はっ! 何をしようってんだ?」


黒モルは最初、同じ態度で、せせら笑っていた。

が、徐々に表情が消えていき

やがて頬肉がだらんと、垂れ下がった。


「ま、まさかお前…試練を受けようというのか?」


あわてて出た黒モルの言葉は、それだけだった。

【白毛の一族】の若者は、目を閉じて

ゆっくりと首を縦に振った。


過去に黒モルは、同じ試練を受けてやると

仲間に吹聴していた事があった。

俺はやれる。

白モルなんかに負けてたまるか、と。


けれど彼は、その黒い胸毛のその奥に

暗い思いを抱えていた。

自分にはその勇気も力も足りていない。

そういう懸念だ。


認めたくない気持ちの焦りと

白いモルモットに先を越されるという嫉妬の念に

黒モルは、胸の奥からチクチクと針を刺される

気分だった。


「出来るもんか!

今まで誰も試したことのない方法で

人間たちを喜ばせる。

そんな過酷な試練だぞ?

しかも全てひとりで、考えなければならない。

それを、お前なんかに!」

「できると信じている」


若者はあっさりと言った。


「そして僕がやる事を、君に教えておきたい」


黒モルはとにかく度肝を抜かれた。

そればかりか、腰から力が抜けて、おが屑の上に

へたりこんでしまった。


「ば、馬鹿な!

それはお前だけの秘密じゃないか!

それを聞いた俺が、先に真似をするかも

しれないんだぞ!」


白いモルモットは澄んだ目で、仲間を見つめていた。


「いや、君は決して、そんな事をしないさ。

ただ、僕が失敗した時には

その意図を皆に、話して欲しいんだ。

だから言う。それだけさ」


黒いモルモットは床に手を付きながら

白い若者をじっと見つめていた。

妬みと焦燥の炎が消え、ぽっかりと空いた

黒モルの心に、初めて後悔と羞恥の想いが

なだれ込んできた。


黒モルは立ち上がって、体に付いたおが屑を払い落とした。


「お前の心を受け取った。俺からも頼む。話してくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る