閃光≒Zurücksetzen

「昨夜未明、××市の山林で女子高生の変死体が発見されました。警察は犯人の捜索を続けると共に、身元の確認を急いでいます」


朝から気味の悪いニュースを伝えるキャスターの声を、学校に行く準備をしながら聞き流す。

技術の発展で目の前にスマホの代わりになる映像が表示され、指で操作して自分の一般公開プロフィールを表示する。


鎖骨の下辺りに埋め込まれた機械が体の情報、位置情報、視覚を全て読み取って政府に送り、全てを監視されている生活。

一昔前なら他人がプロフィールを見るだなんて、プライバシーと言うものに引っ掛かるが、今の時代は何をしようとしても、国民全員に振り分けられた社会貢献ポイントというものを気にしなければならない。


ポイントは良い事をすれば増えていき、悪事を働けば減っていく。そして一定以上ポイントが減ってしまった場合は、強制的に拘束され、長期間による社会奉仕の末に、プロフィールに拘束されたと言う証の烙印が記載される。


当然学生もその対象で、遅刻もポイントが減る対象となる為、急いで支度を済ませて最寄りの駅に歩き始める。


『Danger』


プライバシーの代わりに完全な安全を手に入れた、この警告音も監視されているからこそ発されるものであり、プライバシーと引き換えに手に入れた予防接種みたいなもの。

こうなるまでに時間は掛かったが、施行された途端、便利に溺れた人間は瞬く間に新しいものを取り入れていった。


個人の尊重を訴える団体と大きな衝突もあったみたいだが、いつの間にか全員居なくなっていた。


「奇遇だね、元気だった引きこもり?」


「お互い様だ、それに引きこもってた訳じゃない。鬱陶しい世間に優しくされ続けるのが疲れるだけだ」


背後から走って来た幼馴染の雲母きららは制服のスカートをなびかせて、少し前で急ブレーキを掛けて振り返る。


「朝から元気だな」


「まぁね、私たちみたいに少し昔を知ってる側からしたらさ、ちょっとこの世界って不気味だから、私は私らしく自然に明るく居ようかなって。でも私たちって変わり者に見えるんだろうね」


「まぁな、その変わらないところは俺からしたら有難いところだけどな。変わりたくないから、変わらないままで居たのにな。世界が変わるから、俺たちが変わり者みたいになっちまったな」


詩華しいかは前の世界でも変わり者だったよ、おかしい事はおかしいって直ぐに言うし、納得出来ないこともはっきり言うし。どこかズレてた常識も疑ってた、現実は幻想だから真実を見ようって少し難しい事も言ってたし」


「だから世界は真実だけにした、俺みたいな考えのやつを殺す為に。大袈裟で小さな機械を埋め込んで、全ての事象を見えるものに変えた」


ぽろぽろと崩れた景色が雨の様に降り注ぎ、溜息を吐いた神と目が合う。

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