クラリス・ヴェルト

はぁ。

つい溜息が出る。

こんな途方に暮れた世界を見守る存在なんだから、それくらいは許してほしい。


アメリカ合衆国と呼ばれる大きな大陸では、本当に多くの生き方や自由があって、それに伴って、多くの死や理不尽がある。

その左に少し言った小さな島国には、堅い秩序と少ない変化が繰り返されている。


「ねぇ、あれは何スコット」


私の弟であり、身の回りの世話をする係でもあるスコットは、青い瞳で私の指差した場所を見る。

それを暫く観測してから少しだけ首を傾げ、怪訝な顔で私に向き直る。


「あれは……私たちの甥です。少し前に飛び出して行ったと思えば、人間の学舎まなびやに身を置いているとは」


「私たち七星は常に平等でなければならない、それなのにあの子は個人を尊重し続ける特異点。そうね巫女杜みことの下に行くわ、先にミツェオラを使者として派遣しといて」


「Yes My Fair Lady」


皮肉とも取れる返事をするスコットは、私から逃げる様に部屋から足早に出ていく。

どんな意味であれ、第一継承者のスコットを差し置いて世界となった私は、何があっても咎めたりしないのに。

それでも何もしないのは、私の全てに従順なのは、私であっても等しく終わるから。


景色が変わって和の部屋に座っていると、襖が開いて奥から着物を着た巫女杜が姿を現す。


「今日はどないしたん、ウチも暇やないさかい。ちゃっちゃと済まして帰ってくれんか」


「世界が終わる前にお茶でもと思って。でもそれも気が変わった、この世界を救おうと思う」


「なら、次の世界はウチのおいえに……」


「この世界は何もかも無くなる、崩れ去る。大地が割れ、人が燃える。神は人無しでは生きられず、人は神なしでは生きられない」


「……は? 救う言うても、なにも救えてへん。虚言が過ぎるとちゃうんか」


「私が救うのは今の人類じゃない、私は奇跡を信じる。また文明の進化を成し遂げられる、人に変わる生物が現れる事を。人よりも心が清らかで、歪んだ常識など存在しない種族が現れるまで淘汰を繰り返す」


「は……はははっ、ついにイカレよった……もう好きにせい、ウチも今の世界にこだわっとる訳やない。淘汰はいずれする気やったからな、あてが煮るんも、ウチが焼くんも同じやさかい」


空の広がる景色に移動してから、最初にやった事は出来るだけ人類が苦しまずに逝く準備。

それが終わってすぐ空が割れると、唖然と空を見上げる人間と目が合う。


数秒後、世界は静かに、急速に終わりを迎える。

かつて神だった私はここで立ち尽くすだけ。

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NAMELESS 聖 聖冬 @hijirimisato

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