小鳥遊 紡

画面の中で動く彼が好き。

かっこいい声で呪文を唱えて、かっこよく魔法を使う。

日常とはまた違う場所に連れていってくれる2次元が好き。


「うわっ、また変な絵描いてる気持ち悪!」


突然取り上げられたノートを見た男子は、ノートを持ったまま他の人の所まで走っていき、周りの人に私の描いた絵を見せびらかし、最後にはゴミ箱に投げ入れる。

私の絵を見た人は皆口を揃えて「気持ち悪い」だの「オタクとか無理」と言う。


そうして冷めた目で私を嘲笑い、嫌悪感剥き出しの空気で居場所を無くしていく。

私は黙って視線を伏せて椅子に座ったまま、その人たちが居なくなるのを待つ。


「ねぇ、昨日のアニメ見たつむぎ? もうユエルがかっこよ過ぎてさー」


「うん、見たよ。でもやっぱりアレクが1番」


隣のクラスでアニメが好きな友人が来る頃にはあの人たちも居なくなっていて、やっと好きな事を話すことができる。

そうして昨日のアニメの感想を言い合っていると、授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。


「もう鳴った、また次の時間来るから」


「うんばいばい」


友だちを教室の外まで送るついでにゴミ箱からノートを引きずり出して、手で数回払ってから席に戻る。

礼をして授業が始まって暫く、先生の説明が聞こえないほど大きな声で騒いでいた女子生徒が手を上げる。


「紡ちゃんがそれ分かるって!」


「なら紡に聞くけど、お前たちもうちょっと静かにしろよ。なんの為に学校に来てるんだ」


「えっ、あの。分かりません」


「45ニュートン」


「ちょ、心桜言ったらいかんやん。紡ちゃんが言いたがっとったのに」


「授業時間の無駄だろ、分かるやつが答えた方が早い」


少し変わり者の彼が答えてくれたお陰で難を逃れるが、もう一度来ないように必死に祈って、授業が早く終わらないか時計を頻繁に確認する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る