明峰 唯聖

何でこんな服を着なければいけないのか、何でこんな髪型を強制されるのか、私は全くもって納得出来ない。

それでも、小学生の高学年から始まったいじめを思い出すと、この校則を守らないと在学出来ない現実を突き付けられると、どうしても自分を制限するしか出来なかった。


私は生まれてきたくて男になった訳じゃない、それなのに男の制服を強制され、勉強に支障をきたすと言われて髪を短く切られる。

それを何処に訴えたとて、結局言い渡される判決はこちらに非があると言うものばかり。


「おい唯聖ゆいと、聞いてんのか」


「あっ、ごめん。眠過ぎてほとんど寝てたわ」


「それは分かるわ、マジで眠いよなあいつの授業。ボケてて何言ってるか分からないしな」


「違うだろ、イルザって子に色々聞きに行くんだろ。やっぱ彼氏居るかだよな」


意気揚々と質問を準備している友人に半ば引き摺られるようにして、私にとってはどうでも良い事をする場に歩く。

既に群がる男子を掻き分けてイルザさんの近くに陣取り、聞いているフリをしてテキトーな反応で盛り上げる。


前の休み時間では心桜が殆ど独占していた為、聞けなかった事を聞き出そうと、多くの男子生徒がまだ集まっている。

それを再び遠目から眺める心桜と一瞬目が合ったのを誤魔化す様に目を逸らして、突然入って来たイルザさんの陰口と、最初のターゲットにされていた晴と言う子が居るグループの陰口を言い合っている。


この学校は正直に言うと、可愛い人や綺麗な人は居ない。そんな中でイルザさんと言うモデルの様な人が入って来たのだから、面白くない事も多いかもしれない。

晴さんに至っては、その親しみやすさと性格の明るさから、男子ともよく喋るからと言う、完全な理不尽から目を付けられている。


こんな空気の中で自分がLGBTだなんて、言えるはずも無い。

言った途端またいじめの対象にされて、汚いだの気持ち悪いだの、汚物の様に扱われる生活が待っている。


いじめの対象にされている人たちには申し訳無く思うけど、自分さえ安心に過ごせれば良いと思ってしまう。

助けるなんてしたら同じいじめの対象にされるし、やっと出来た友だちも全員離れていってしまうかもしれない。

それを考えると、どうしても自分じゃなくて良かったと思ってしまい、目を伏せる様に何も見ないフリをしてしまう。


悪い事だなんて意識も無いし、それは仕方が無いことだと思う。

だって私は隠していれば何も困らないし、イルザさんのように隠そうとしても隠れない美貌でもなく、晴さんのように生まれながらの親しみやすさでも無い、物心ついた時に気付いたものだから。

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