第3話
「流石!フラーは手際良かったねー!」
ジャンヌがフラーを持ち上げるように、大げさに褒める。
『魔法薬』の実習が終わりに近づき、フラーとジャンヌを含めた何人かで、豆の選り分けと、使用した道具や『油豆』の鞘の後片付けをしていた。
「ふふーん、まあね。これくらいは出来なきゃ。だけど、これでもまだまだなんだよ。いつもお母さんに怒られちゃうもん」
「フラーちゃん、お家が薬屋さんなんだっけ?」
茶色い髪の女の子がフラーに尋ねた。
フラーとその女の子は、床に散らばった豆の鞘などのゴミを掃いて集めているところだった。
「そうそう。正確には薬問屋だけどね。お店も併設はしてるけど」
「凄いなぁ、フラーちゃん。私、『魔法薬』不安だなぁ……」
「でもアンジェリーナだって、前期の成績悪かったわけじゃないでしょう?」
「私、不器用だから、後期は実技中心で自信ないんだぁ……。今日も作業遅かったし……」
「大丈夫よ。それを言うならジャンヌの作業だって雑だったし。気にすることないわ」
アンジェリーナの落胆ぶりを見て、元気付けようとしたフラーのその言葉に、作業机の方で豆を選り分けていたジャンヌが振り向いて口を挟んだ。
「だーれの作業が雑だって?」
「あら、事実でしょう?あれだけ先生に言われていたのに、豆を滑らせて口に放り込まれたら文句の一つも言いたくなるわよ」
「フラーがマスク外すのがいけないんじゃんか」
「もう全部鞘から出し終わっていたじゃない!あなたが無駄に指で摘んで遊んでたから……。実技の試験は助けてあげられないんだからね。前期のテストも私が勉強手伝わなきゃどうなってたことか……」
フラーが深いため息を吐く。
「ホント、筆記も実技も優秀なことで。フラーこの科目無敵じゃんね」
「なあに、無敵ジャンヌって?ジャンヌってば、ケンカ強いの?」
ジャンヌの隣に座る赤毛を三つ編みにした女の子が、ジャンヌの言葉尻を捉えてからかった。
「いや強くないし!そもそもそんなこと言ってないし!」
「だったらサボってないで選別手伝ってよね」
ベラと呼ばれた女の子は、小さすぎたり黒ずんだりしている豆を慎重にボウルに分けながらそう言った。
「ごめん悪かったよ。でもベラは私を馬鹿にしたから、罰として選別終わったら豆の提出、お願いね!」
「なんでよ!おしゃべりしてばっかりで手を止めてるジャンヌが悪いんですー!ジャンヌが行くべきでしょ!」
言い争いを始める二人を見て、フラーたちは目を見合わせ互いに苦笑いを浮かべる。
「私達の机の周りは大体掃き終わったし、私ちりとり取ってくるね」
「ありがとうアンジー。ほーら!こっちはもう終わったわよ。二人とも喧嘩止める!」
フラーは箒の柄をジャンヌとベラの間に滑り込ませた。
「びっくりしたぁ!何するのさフラー!」
「周り見てみなさい。他の班はもう道具も返し終わってるわよ」
「ウソ!急がなきゃチャイム鳴っちゃうわよ。もう!ジャンヌがちゃんと手伝わないから……」
ベラの言葉が終わらないうちに、非情にも終業のチャイムが頭の上から聞こえてくる。
フラーたちは各々に文句を言い合いながらも、慌てて残りの片付けに取り掛かる。
「ちりとり取ってきたよ」
そこにちりとりを片手にアンジェリーナが戻ってきたが、どういうわけか気まずそうな顔をしている。
「あの……フラーちゃん。先生がね、用事あるから授業終わったら来なさいって……。遅刻した罰だって言ってた……」
アンジェリーナは伏し目がちにフラーにそう伝えた。
「ああ、大丈夫。それならきっと冗談だから。何かしら話をする口実が欲しかっただけよ。でも私が遅刻したこと、どうして先生が知ってるんだろう……」
フラーは少し考えながら、手に持つ箒をクルクルと回した。
「あ……それは確かジャンヌちゃんが……」
「そういう訳なら、なおさら急がなくちゃな!それじゃあちゃっちゃと後片付け終わらせようぜ!」
アンジェリーナが何か言おうとしたところで、ジャンヌが慌てて割り込んでくる。
「ん?何か知ってるのアンジー?よく聞こえなかったけど……」
「別に何でもないさ。なぁアンジー?」
「えっと……」
アンジェリーナが板挟みにされてアタフタし始めたところで、もう我慢できないとばかりに、肩を震わせてベラが振り向いた。
「楽しそうなところ申し訳ないけども!三人ともさっきから手ぇ動かしてないんですけど!!」
普段あまり怒らないベラに一喝され、他三人は大層こたえたようだった。フラーは慌てて箒を持ち直し、ジャンヌは飛び込むように椅子の上に戻り、アンジェリーナはシュンとなってちりとりを持ちながらしゃがみこんだ。
三人はベラは絶対に怒らせないようにしようと、密かに心に誓ったのであった。
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