4. 料理
十二月三十日。
目を覚ますと、目の前に少女の寝顔があった。可愛い。
いや、可愛いけれど。可愛いことには間違いないのだけれど。
問題はそこじゃない。
「……何で俺の布団で寝てるの」
リビングで寝ていたはずの
そして近いし、
これが女子の匂いか。忘れないようにしっかりと記憶しておこう。
江河さんの匂いを
「んん~」
江河さんの起床である。
「おはよ」
至近距離で
「……おはよう、ございます」
目を
絶賛コミュ
江河さんは俺の布団から出て、
「そうそう、朝ご飯できてるから一緒に食べよ?」
江河さんは
泊める許可は出したが、料理を作って良いだなんて言った覚えは無い。
そもそも冷蔵庫に調味料くらいしかないのに、どうやって料理を作ったのだろう。
「考えても仕方ないか」
寝起きで働かない頭は使い物にならず、俺は思考するのを諦めた。
◇ ◇ ◇
「頂きます」
「い、頂きます……」
机の上には美味しそうな料理が並んでいた。
焼き鮭、きゅうりの漬け物、ほうれん草のお浸し、卵焼き。当然、味噌汁とご飯もある。
典型的な和食といった感じだ。
「きゅうりの漬け物だけは買ってきたやつそのままだけど、それ以外は私が作ったんだよ?」
おお、そうか。
それよりもどこから食材が湧いたんだ?
「あ、そうそう。お金勝手に使っちゃった」
おい。
「
確かに俺は財布とか時計とか、普段は自室の机の上に置いている。
けれど、せめて使う前に俺に訊こうよ。
「さ、とにかく食べて食べて」
「…………」
何か複雑な気分だ。
でも、折角作ってくれたのだから、食べないのは失礼だろう。可愛い少女の手料理なんて、この先一生食べる機会がないかもしれないし。
俺はまず、焼き鮭を口に入れる。
「……うまい」
思わずそう
あまりにも美味しかった。
ただ鮭を焼いただけだと思うかもしれないが、基本的に市販の鮭は非常に味が薄い。
だから、焼き加減だけではなく、塩加減も大事なのだ。
この焼き鮭は、そのどちらの加減も文句の付けようがないほど絶妙だった。
さらに、僅かにバターの香りがする。それが味に奥深さを感じさせていた。
「それなら良かった」
俺が食べている様子をじっと見ていた江河さんは、安心したように笑みを浮かべる。
その後も俺は箸を休めることなく食べ続けた。どの料理も申し分ないほど美味しく、俺は満足だった。
食べ終えた後、江河さんは俺にこんなことを訊いてきた。
「ねえ、何で私を泊めてくれるの?」
何故と訊かれても、俺は答えられない。
ただ何となく、江河さんが困っているなら泊めたいと思っただけなのだから。
「私の事情とか何一つ知らないのに、普通泊めようだなんて思うかな?」
俺に訊くというより、江河さんが自分自身に尋ねているようだった。
相手を知らなくても、相手を泊めたいと思うかどうか。
……どうだろうな。
でも、少なくとも俺はこう思える。
「困っていたら、事情とかどうでも良いんじゃないですか? 困る状況になるには、それ相応の理由があるってことはだいたい察しがつきますし。困っていたら助ける。それが人情だと思いますけど」
確かに俺はコミュ障で、人と話すのは苦手だ。初対面の人なら
けれど、だからと言って困っている人を放っておけるほど俺は薄情じゃない。
上手く言葉にできないかもしれないけど、相手に気持ちが伝わらないかもしれないけど、それでも力になりたいと思う。
単純かもしれない。
本当は他人に自分が良い人だと思って欲しいだけなのかもしれない。
けれど、助けたいって気持ちは本物だから。
ならば、助けることに理由なんて必要ないのではないか。
「……そっか」
江河さんはクスっと笑う。
この時、俺は初めて気付いた。
かなり
「私が女の子で、少し期待したからって理由だけで泊めたのかもって思ったけれど」
一割くらいは確かにあんなことやこんなことを期待していたけれど。
絶対、秘密にしておこう。
「平山くんは優しいね」
俺は、僅かに罪悪感を覚える。
「だから、やっぱり私は」
江河さんは真っ直ぐな
「私は、平山くんが大好き」
俺は、少し、ドキッとした。
◇ ◇ ◇
十二月三十日はあっという間に過ぎていった。
俺がラノベを読んでいると後ろから江河さんが
俺がトイレの扉を開けると江河さんがいたり。
俺が昼寝をしていると、隣で江河さんが一緒に寝ていたり。
精神的には少し、いや、だいぶ疲れたが、悪いとは思えなかった。
高校に入ってからの二年間、ずっと一人暮らしだったこともあり、むしろ誰かと一緒に過ごすことが楽しいと思えた。
コミュ障で上手く言葉を伝えることはできないけれど。
それでも、一緒に過ごせることが、
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