第4話 一番の敵は身内にいた。
拝啓
読者の皆々様。先日は尻切れトンボの記事になったこと、どうかお許しください。私のみに起こった大惨事については、お話しできるような状況ではなかったのです。やっと今、お話しすることができるようになりました。
さて、実はこの話だいぶさかのぼりまして、私がなぜこのウェブ記事を書かせて頂くことになったのか、という話からしたいと思います。
私は片付けられない人間です。物は散らかり、服はぐしゃぐしゃ。でも、仕事のデスク周りはきれい。(見栄っ張りだから。)そんなことから、上司に「片付け」をさせてみたら面白いんじゃないか、となっていったのです。そこからは皆様ご存知の通り、部屋はまあ順調に片付きました。しかし、私は忘れていたのです。自分が片付けられない人間であることを。
嬉しいことは続くというが、まさか自分もプロポーズされるなんて・・・。HAPPY HAPPY。盆と正月が一緒にやってきたような嬉しさだ・・・とまあ、古くからの表現を使って喜びを表している私だ。今日も夕ご飯を一緒に正臣さんと食べに行く。
「なあ~に。にやけちゃってさ。なんかいいことあったでしょ。」
「けい!!私そんなに顔にやついてた?!」
「朝からずぅーっとにやついてたわよ。」
いけない。いけないと、私は真顔を装った。そのとき、スマホのバイブレーションが聞こえた。表示されたのは政春さん。
「あ、ごめんちょっと。」
私は席を外し、休憩室へ駆け込んだ。
「もしもし、どうしたの?仕事中に電話くれるなんで珍しいね。」
仕事中に互いにかけることはほとんどないのだが。
「・・・大変なことになった。」
「え?!」
「おふくろがお前に会いたいらしい。しかも今週の土曜日だ。」
「え・・・と。ちょっと急すぎない?」
心の準備も何も・・・。部屋の準備も・・・。
「なーんにも終わってないのは分かる。悪い。けど、会ってくれないか。どうしても会わせろってうるさくて。」
「まあ・・・。特に予定もないし。お母様、わざわざ来てくださるんだもの会うわよ。」
「助かる。じゃあ、レストラン予約しておくから、昼の十一時に会おう。場所はあとで、また連絡するわ。」
「了解。じゃあね。」
そして、決戦の土曜日。わたしはケイと考えた、対義理の母コーデ(白いワンピースに黄色のカーディガン姿)で政春と合流した。この日のために、美容院まで行ってきた。私エライ。
「お、髪切った?服も清楚系?」
「そうなの。」
気がつくなんてさすが、政春さん。
「ぷっ。おふくろ対策か。」
「あ、分かった?」
「大丈夫。カケルはそのままでも十分きれいだし、絶対おふくろ嫌がらないと思う。」
「もう、さらっと褒められると恥ずかしい。ありがとう。」
私達は駅でお母さまと広いレストランへ向かう予定だ。政春さんがスマホを確認すると、
「あ、おふくろもう来てるって。いつもそんな早く来なくていいって言ってあるのに。」
そう、駅前には黄色の落ち着いた着物をまとったTHE母が立っていた。
「マー君!!何言っているのよ。私はよく言ってるけど、レディを待たせるのはいけないって。」
「何がレディだ、よ。二十分前は早いよ。」
いつもの冗談なのか二人は笑いあっている。私はここで微笑みたいところだが、緊張でうまく笑えない。
「ところで、そこのお嬢さんが・・・カケルさん?」
「は・・・はい。初めまして、久木カケルです。」
「カケルは出版社に勤めているんだ。」
「まあ、そうなの。私、本は好きよ!!いろいろお話聞かせてちょうだいね。」
「はい。」
なんとかファーストコンタクトはまずますの出だしだ。
「じゃあ、レストラン行こうか?」
「ちょっとまってちょうだい二人とも。私行きたいところがあるのよ。」
「え、どこだよ。」
政春さんと私はキョトンとする。
「二人とも同棲するんでしょ?部屋は決まったってきいたから。見ておきたいのよ。」
「は?」
「さ、行くわよ。」
すっかりお母さまペースだった。部屋は2LDKの日当たりのいい物件だ。
「・・・ふむ。まあ、住みよさそうね。」
「当たり前だろ。二人で決めたんだから。」
「・・・さてと。」
お母様はその小さな手提げ袋から、着物に似つかわしくないものを取り出した。
「・・・え?メジャー?」
メジャーを取り出すやいなや、お母様はあっという間にすさまじい勢いで部屋を図り始めた。一通り図ると気が済んだのか、笑顔で
「さあ、行きましょう。」
と、とっととその場を後にしてしまった。
そして、待ちに待った引っ越しの日。政春さんが荷物を運び入れ、私がどんどん整理していると、外でトラックの止まる音がした。すぐ後にチャイムが鳴った。
「こんにちは、白猫宅配便です。お荷物をお届けに参りました。」
「政春さん、何か頼んだ?」
「いや、何も~。」
二人で不審に思いながら玄関へ向かう。
「差出人はどなたですか?」
「森山雅子様ですね。」
「おふくろ?」
玄関のドアを開けた、二人は凍り付いた。届いたのは三段の桐のタンスだった。しかも、二竿。
「え・・・部屋が部屋が占領される?!」
「おふくろの手紙が付いてるぞ。」
「カケルさんへ
これは私からの新居のお祝いです。どうぞ、ご活用ください。
追伸 カケルさんの記事を読みました。今度、新居に行きます。
森山 雅子」
え、え――――――――――――――――――――――。
そんなこんなで始まったこの連載ですが、今や私の人生までかかってきています。この間、めでたく私は彼からプロポーズを受けました。しかし、このプロポーズには条件付きでした。「部屋が片付かなかったら、別れる。」そんな崖っぷちの状況なのに、いまやタンスに占領される日々。そのストレスにより、部屋がまた汚部屋状態に・・・。この危機的状況の中、この連載は次回が最終回。私の運命や、如何に?
敬具
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