第3話 君が、すべて変えるならね。

拝啓

 読者の皆々様。だいぶ過ごしやすい季節になりました。先日は私の好きな金木犀の香りがどこからかやってきました。

そんな心穏やかな日々を過ごしていたのですが、つい昨日のことです。私はとんでもない衝撃を受けました。しかも、いい意味と悪い意味の両方で。まずはいい意味からお話ししましょう。私は、今回のテーマである服をせっせと片付けておりました。今回は、助っ人のAと二人。以前、お話しした同期の手厳しいAです。Aと話しあった結果、服の片付けは結局、着るか着ないか、なのです。Aに見てもらいつつ、一年以上着ていないもの(通称タンスの肥やし)を捨てていきました。傷みがないもので、ブランド品だったり、質の良いものについてはネットのフリマで売却することに。

すっかり見違えた私のクローゼット!!と思ったのもつかの間、Aに言わせると「からっぽに等しい。」そう、私の肥やしたちは流行に後れたり、ボロボロだったりと仕事にもお出かけにも着ていけないようなものだったのです。そんな服たちが幅を利かせていたのですから、それらが無くなった途端にすっからかんになるのも当たり前田のクラッカー。(古い!!)そんなガラガラのクローゼットの中身はというと、仕事着4着くらい、お出かけ着3着、冠婚葬祭用にはスーツオンリー。週5で働いているのに!!普段は同じフロアにファッション雑誌担当がわんさかいて、一緒に仕事しているなんでお恥ずかしい。ということで、後日、A(ファッション誌担当)にはアドバイスをもらいながら新しい服を買いに行くことになりました。

今回、私はAにいわれたこの一言が忘れられません。「服は定期的に入れ替えてかないと。」そう、他の片付けにも通ずるかもしれませんが、ことに服に関しては定期的に買う→捨てるの循環させていかないと、着られる服なんてなくなっていくのです。

これがいい意味での衝撃。そして、悪い意味の衝撃についてですが・・・。そちらはまた次回お話ししようと思います。ここまで書いて言わないのか・・・。と思われるかもしれませんが、お話が長くなりそうなので今回はここまでとしたいと思います。それではまた。(愛想つかさないで次回もよろしくおねがいします・・・。)

次回は、いよいよ「物」についてです。



敬具


「ダサい。こんな服、初めて見たよ。どこで売ってるの。」

「あはははははは。だよねー。私もどこで買ったか覚えがないくらい久々にこの服みたわー。」

「いや、あははじゃないでしょ。さっきからこんなんばかり。たんとか探検隊ばりに遭遇しちゃってるんですけど。はい、廃棄。」

 けいは容赦なく捨てた。しかし、私は不思議と本の時とは違い、あの悩ましさがいいさいなかった。すっきりの一言に尽きる。今回はフリマでの売却に加え、新しい衣類の購入も検討していたので、けいに来てもらったのだが、やはり来てもらって大正解だった。服の片付けに満足していると、けいは何げなくボソッと言った。

「私、再来月一真と結婚するから。カケル、受付頼んだわよー。」

「あー、はいはい受付でも配膳でも何でもやるよ・・・え?誰と誰が結婚するって?」

「川崎一真と私よ。」

「・・・本当?」

「本当。」

 一拍の間があってから私は理解した。

「おめでとう!!ほんとによかった。紹介した甲斐があるよ。」

「ありがとう。カケルは私に一真を会わせてくれたから、一番に報告しようと思って。」

 けいは照れ笑いをしながら、言った。

 私と美野里と一真とケンで呑んだ時、たまたまけいの写真を見せたのだ。その時、一真がタイプだから会わせてほしいと懇願してきた。私も二人は気が合いそうな予感がしていた。けいに聞くとあってみたいということで、三人で食事に行くことになり、二人を引き合わせたのだ。すると、トントン拍子で二人は付き合い始めた。

「けい、幸せオーラ出てるよ。私もあやかりたい。」

「いやいや、手であおぐのおかしいから。別に私から幸せになる煙とか出てないから。」

 けいとで会ってから初めて見る表情だった。なんか、いいな。プロポーズとはこんなに人を幸せにするのか。神様、私にも早く訪れるよう一つ頼みますよ。


 けいを見送った後、政春さんから連絡がきた。急に会いたくなったという。自分の彼氏ながら可愛いところがあるとニヤニヤしてしまったが、家まで迎えに来た政春さんは言葉少なげで、車に乗ってからは一言も話さなかった。

「今日はどこへ?」

「それはついてからのお楽しみ。」

 行先も教えてもらえず、ついた場所は小高い山の中にある公園だった。そこは、夜景がきれいに見える有名な場所だ。

「もうすぐだ。あの辺りよく見てて。」

政春さんが指さした場所をよく見る。すると、ひゅーという音とともに夜空に満開の花火があがった。

「あ、きれい。お祭りの日だったんだね。最近、忙しくて気が付かなかったよ。」

「このお祭りはさ、俺にとってカケルと出会えた思い出のお祭りなんだ。」

「え?」

「俺が初めて組んだツアーで添乗員として参加したんだ。このお祭りの最後の花火がツアーの目玉でさ。俺はあの日、会場にいたんだ。ツアー参加者で5歳の男の子がいて、親の目が離れたすきに迷子になって、俺はパニックになりながら探したんだ。そしたら、ある女性がその子をお祭りの本部まで連れてきてくれた。」

「あ、その時の女性って・・・。」

「そう、カケル。お前だよ。あの時のカケル、まじで天女に見えたわ。それから少したって、仕事で再会して俺はすぐに気が付いたんだけど、カケルは全然覚えてないしさ。」

「それは・・・ごめん。」

「いいよ。それがきっかけで今の関係があるからさ、この場所にしたんだけど・・・カケル、改めて言います。同棲の話が出て半年くらい過ぎちゃったけど、改めて一緒にいてほしいと思う。だから、結婚しよう。」

 政春さんはケースを開けて指輪を見せた。

「え・・・う、嬉しすぎて言葉が出てこない。」

「そこは、良い返事が欲しいなー。」

「・・・お願いします。」

「わー。緊張した。緊張しすぎて手汗すごい。今、はめるね。」

照れくさいのか、緊張が解けないのかうまく指輪が入らず、もたもたとする政春さんはいつもきりっとしてる姿とは違い、おかしくなって吹き出した。ああ、本当に、私この人のことが好きなんだなって。そんな姿でも、私はこの人が好きだ。

「さて、プロポーズしたんだけど、一つ聞きたいんだ。カケル、部屋の掃除は順調?」

「あ、うん。自分でもびっくりなんだけど続いてるんだ。人に報告しなきゃいけないし、アドバイスももらえたりするおかげかな。今日もけいに手伝ってもらって、服を片付けたところ。」

「じゃあ、結婚の具体的な日にちなんだけど・・・君が片付け終わってからにしよう。片付けられなかったら、ナシってことで。」

「・・・え。」

「だから、片付けできなかったら結婚はナシ。カケルの部屋は居心地いいんだけど、汚いっていうのは、いい影響ないから。」

 神様、プロポーズというのはこんな残酷なものだったでしょうか。私は結婚できるのでしょうか・・・。

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