愛とは何ぞ

 孤高の天才は己が為に妖精を利用して生きる価値を示し続けた。


 自分より優先する事が愛なら自己愛を除き愛など無かった筈……。




 前世の記憶を持つ少女は己が価値を示す手段を失い絶望していた。


 自分を絶望から連れ出した老人は、自分と同様に他を愛しえないと否定できなかった。


天才の知恵を持つ自分が必要だった」と最初は考えていた少女老人から媒介に成ると言われ、不便が無い生活と栄養を取れる食事を与えられて、自分へ何も求めない老人の言動から自分が出した答えを見失った。


 自分を道具だと考えるなら、恐怖や不安で何かが欲しいと思わせて、与える事で躾ければ良いが、欲したら与えられ、対価を求められず唯々、不気味だった。


 老人が定義する自分の価値が分からない少女は愛以外の決定打が無くて愛を否定できず、愛を肯定する要素は見つかった。


 可能性に留まるが愛は有ると考えられたが、前世から愛される実感の無さが続いている少女は理屈の愛しか知らず、愛がこの世に有ると信じられない。


 老人の言動が優しい動機を断定できない少女は「自分が害される可能性不安」で苦しんでいると察した老人から「不安なら、私の愛を信じなくても良い、私を悪者にしても良い、私は君に求めるモノは、幸せな君だから」などと理屈通りの愛を示されて、老人の愛から欠陥が見つけられない少女老人から与えられる愛を認めた。




 愛された実感から、愛を知ったが、愛を知っても愛せるとは言い切れない。


 老人へ贈れるモノは何か、それは妖精でも、お金でも、不老不死でもなく、幸せな自分だった。


 けれど、幸せとは何か、妖精を飼う楽しさは老人の下でなくとも経験したことが有る。


 絶望から脱した当初は妖精との間接的で些細な交流に高い価値が有ったが、当たり前に成り慣れた今は、以前ほどの喜びはない。


 その程度では、老人が喜ぶ幸せを示せない可能性がある。


 当たり前ではなく、特別な何かを老人から与えられる必要があると考えた少女は、何時もの行動範囲から離れた山へお出かけしたいと老人へお願いした。


 普通の生活で得られないなら、自分から作れば良いと少女は考えた。


 多少の無茶ぶりに応えそうな老人の体調を気遣って負担が少なく行ける場所を選んだ。


 特別な二人のお出かけは新鮮で楽しくて、幸せを感じられた少女は、その気持ちを老人へ告げると共に、失えそうもない大切な気持ちが溢れた。






 数年後……。



 旧市街で青年のお店を手伝っている今も妖精や人を愛していると断言できない少女は、知らないからでは無く、自分の愛と老人の愛を比較して、愛に相当すると思えないと言う風に変わっていた。愛を知らなかった昔と愛を知る今も自分が何かを愛する気持ちを把握できていない。






 前世で恋仲に成りたいと迫られた異性は、自分が高めた天才の価値を求める者だと考えて恋では無いと断定していたから、恋人は居なかった。




此処からは 大きな区切り 時点で少女を恋を意識したら の もしもな内容 で 実際は意識して考えた状況次第で変わり得る。


 は自分へ恋する理由が無いと思っているから恋は鈍感。


 獣人は奴隷で、恋仲に成らずとも、支配できるし、主人を見捨てたい等と示していないから、恋仲に成らずとも問題はないなどと少女は考えている。


 主人以外から知恵を求められた場合は、奴隷の持ち主に成れば良いことで、恋仲に成っても、主人が手放さない限り手に入らないから、やっぱり恋仲になる意味はない。


 少女青年から恋されていると気付いていない。青年とは世間話をする程度の仲だから。現状(大人の姿に限り獣人では会っていない)では。


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