第5話 翼を捥ぐ 後編
フィーマンの想区までのネタバレと多大な自己解釈、捏造、妄想を含んでおります。あとひたすらに救われないエクスくんのお話が続くプロエクっていう地雷ものでしかないので
苦手な方はお気をつけください。
こ の、 仲 間 殺 し が
そう吐き捨てれば、目の前の少年は分かりやすくその瞳を動揺に揺らして、どこにそんな力があったのかバッと僕の手を振り払う。
視界の端でなにかを捉えた気がして見れば、その手に握られているのは、仲間の血でべっとり染まった彼のナイフ。月明かりで冷たく光るその輝きに、僕は笑みをこぼす。
───あぁそうか、君は。君はもう。
「ちがっ......僕は、ぼくは......っ!!」
肩で大きく息をして、その指を震わせて。けれど、その標準を確かに僕を向けて。
悲しい、悲しいね。もう君は、それに頼ることすら躊躇わないのか。
彼のナイフが僕の体に届く。ナイフが肉を貫き臓器を押しつぶし、骨を砕いていく。その傷口から真っ赤な鮮血が溢れて、彼の細くて白い指を伝って、地面にボトボトと落ちていく。
「あ......あぁ............」
その感触に彼が頬を引きつらせる。自分から刺しておいて、どうしてそんな顔をするのか理解に苦しむ。恐らくは、仲間を殺した時の感触でも思い出したのか、あるいは。
「......ほらね、君は所詮こちら側の人間なんだよ」
彼の細い手首を握り、ナイフをさらに食い込ませる。彼に見せつけるように、植え付けるように。
どんなに英雄だと、王子様だと言われようが、彼も所詮はただの少年に過ぎない。
まだ幼く、危うく、そして脆い。
───だから。
彼の小さな肩を引き寄せてそっと囁く。
「君の仲間を助けてあげようか?」
その言葉に彼がバッと顔を上げる。
少し前の彼ならこんな言葉に反応一つ示さなかった。それくらいの理性と正気をまだ保っていた。けれど今彼の瞳に映るのは、嫌悪でも敵対心でもない。救済を望むような、縋りつくような、そんな幼い16歳の少年そのものだった。
かつて僕に縋ったあの娘と同じ。何百年も前の、お星さまに焦がれたあの少女と目の前の彼が重なる。
君たちワイルドはどこまでいっても救われない。悲しいよね。苦しいよね。僕には分かる、分かるよ。
僕は微笑んで、彼の頰にそっと手をあてて優しく撫でる。
「君が僕の手を取るというのなら、彼らを助けてあげる」
だから、可哀想な君に慈悲をあげる。永遠に救われない君に、仲間を殺した十字架を死ぬまで背負い続けなければいけない君に、たった一つの救いをあげる。
「辛いよね。悲しいよね。苦しくて堪らないよね。よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
全部忘れて、僕に委ねて、楽になってしまえばいい。死ぬわけじゃない。僕らと一つになるだけ。
あぁ、泣かないでよ。別に君と違って、僕は君が嫌いなわけじゃないんだから。
さぁどうする?と首を傾げれば、彼は何度か迷うように視線を彷徨わせていたけれど、下唇を噛んで僕を見上げた。
そして震える声で、まるで神に懺悔でも乞うように、彼は口を開いた。
「......お、ねがい」
もう一筋の光も宿っていない瞳が、一心に僕を見上げる。
......あぁ、やっと。やっと彼を手に入れられる。この100年間ずっとあの巫女たちに、なにより彼に抵抗され続けていたけれど、彼さえ堕ちてしまえば後はもうこちらのものだ。
「なん、でも...なんでもする、から...レイナを......みんなを助けてっ......」
綺麗なガーネットの瞳から雫をぼろぼろ零しながら、彼は僕に縋り付く。その姿は、かつて稀代の英雄だと言われていた彼からはほど遠く、そこにいるのはただの翼を捥がれた渡り鳥だった。
「なんでも......ね。エクス、なら、ちゃんとお願いしてみせてよ?」
僕は彼に、ニコリと笑いかける。
さぁ、誓いのキスを、王子様
ガチャリ、と重く錠前が閉まる音がした。深い深い夜の底にある、渡り鳥を閉じ込めた鳥籠の鍵が閉まる音だ。
虚ろな目をした少年を抱きしめて、僕はそっと微笑む。
見ていたかい? レイナ・フィーマン
残念だけど君たちの希望は潰えたようだよ。
どこへでもなく呟いたその声に、かの巫女たちが何か言った気がしたが、僕は構わず、眠っている彼の額にそっと口付ける。
「......おやすみ、エクス。よい夢を」
おとぎばなし 夜蒼 @migrant
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